小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

33粒のやまぶどう  (短編物語集)

INDEX|162ページ/169ページ|

次のページ前のページ
 


 思い起こせば7年前、僕はこの教室の先生に拾われた。そして、ここで居候することに。
 それとほぼ同時に、5歳の沙里がバレエを習い始めた。
 幼い沙里のバレエ、ウサギのようにぴょんぴょんと跳ねるだけだった。その上、泣き虫。先生からちょっときつい指導を受けると、ワァーと派手に泣く子だった。
 多分口惜しかったのだろう、すぐに僕の所へ駆け寄ってきて、無造作に首をつまみ上げ、小さい胸に息が詰まるほど僕を抱き締めた。

 それでも、やっぱりバレエが好きだったのだろう、友達に負けまいと一所懸命練習に励んだ。
 その甲斐あってか、沙里が10歳の頃のある日、僕は見た。沙里の踊りが明らかに進化を遂げたのを。
 それにしても不思議だった。突然高いハードルを超えたような上達で目を疑った。だが最終的に、そういうことだったのかと僕は納得した。

 というのも、この教室の壁に1枚の大きな鏡がある。沙里が頻繁に、鏡に映る自分の舞い姿を確認し出した。気が付けば、いつも鏡の前に立っていた。そして何度も何度もそれぞれのポジションでのポーズをチェックし始めていた。

 それからのことだ、沙里の舞いが……、たとえば腕を上げて丸くするアン・オーや片脚で立つアラベスクなど、一つ一つの要素が一段と美しくなっていった。
 そして僕は耳にした。鏡に話しかける沙里の声を。
「里沙(りさ)! 私、あなたよりもっと上手く踊りたいわ」と。

 僕はその時、良かった、やっと気付いてくれたかとホッとした。なぜなら、とっくに僕は感じていた。少し暗い大きな鏡、そこに映る自分は微妙に自分自身とは違うと。
 もちろんミラーだから左右は異なる。しかし、どことなく他人のような……、いや、もう一人の自分がそこにいるような気がしていた。
 きっと沙里も幼い頃からここへ通い、それを看破したのだろう。だから沙里は鏡の中の自分を――、自分とは異なる名前、それはまるで鏡で反転したかのように、『里沙』と呼んだのだ。

 それからのことだった。沙里の静も動も飛躍的に華麗さを増した。こうして12歳の少女が第三幕ヴァリエーションに挑戦できるまでの上達を果たしたのだ。