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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 天正10年(1582年)6月2日の未明、本能寺の変は起こった。轟々と燃え盛る炎の中で織田信長は自害したと言われている。
 しかし、明智光秀は燻(くすぶ)る焼け跡でくまなく遺骨を探した。されど見つからなかった。
 謀反を起こした光秀にとって、信長に代わり天下を取ることが第一義。このままここに留まってるわけにはいかない。この後光秀は電光石火に京を治め、残党を追捕し、近江平定を行った。
 そして6月5日には安土城へと入城し、7日に朝廷の勅使から祝辞を受けた。これで一段落、光秀は翌日坂本城へと戻った。

 それにしても、心奥(しんおう)に一つの事が引っ掛かってる。
 まことに奇怪だ!
 本能寺の変、紅蓮(ぐれん)の炎の中で、確かに信長は天魔の野望とともに命を絶った。そして灰になった。
 されども、微かとはいえ、信長の骨は……?

「まだ見つからぬか?」
 光秀は溝尾茂朝(みぞおしげとも)にあらためて問うた。されども答えは否。
 その代わりに、中国攻めの羽柴秀吉が毛利と講和を結び、主君の仇討ちの旗を掲げ、すでに姫路城に入城したとか。それは、この謀反を予想し、段取りをしてきたかのような素早さの中国大返し。

 さらに堺で遊ぶ徳川家康は闇に紛れ、三河へと出奔したとか。
 これらの情報を得た光秀、「うーん」と一言唸り、局面は変わったと実感する。

 しかれども、この後の光秀にはゆめゆめ考えられぬ悲運な展開が待っていた。まず五日後の、雨が振りしきる6月13日の山崎の戦いで秀吉に破れる。そして坂本城へと退散中、小栗栖(おぐるす)で土民の竹槍により討たれてしまうのだ。