33粒のやまぶどう (短編物語集)
太一郎はこれを読み、1万円とはちょっと高いが、とにもかくにもエレベーターの『3』のボタンがなくなってるのだから、早晩業務にも支障が出てくる。もう背に腹はかえられない。
「よし、明日参るとして、『3』の代わりに望みの欠番を提案する必要があるのだな。さあ、何番にしようかな。うーん」
太一郎はいろいろと考えを巡らせ、最終的に「俺も年だし……、これからの人生、カミさんと仲良く幸せに暮らして行きたいし、職場では気楽な『3』番手を死守したい。そのためには……、ヨシ、この数字を欠落させてもらおう」と呟き、手帳に「250700」とメモった。
「250700」、それは『ふこうなオレ』とも読める。
つまり『3』の代わりに、この数字、不幸な俺を欠落させてもらいたいと――切に願うものだった。
作品名:33粒のやまぶどう (短編物語集) 作家名:鮎風 遊