33粒のやまぶどう (短編物語集)
こんな迷いと自信のない日々が続いた。だがある時、旅行社の宣伝文句が耕介の目に飛び込んできた。
◇ 日帰り旅 : 未来巡りを、あなたに! ◇
えっ、未来って?
しかも日帰り……、嘘でしょ。
しかし、現状打破したい耕介の好奇心に火が点いた。あとは一直線に店内へと。
早速、「看板の未来巡りが気になりまして」と申し出ると、「あら、お目がお高いこと、当社の特別プランなの。だけど皆さん、そんなの眉唾ものだと、未だ契約を頂いておりませんわ」と亜希(あき)と名乗るスタッフが応対してくれた。
これに耕介がふんふんと頷いていると、さらに「お客様、未来から現在に戻って来れるか心配なんでしょ。大丈夫だってばぁ。だから是非、契約第一号になって頂けませんか」と、亜希は押しの一手。
「で、費用は?」、肝心なことを外さず耕介が尋ねると、「たったの10万円よ、高過ぎ晋作なんて言わないでね。だって私、プリティウーマンがガイドさせて、頂き退助よ」と、板垣退助(いたがきたいすけ)からの多少のズレも気にせず、ギャグを噛ませながら迫ってきた。
耕介はこんな風変わりな愛らしさに負けてしまい、お願いしますと申し込んでしまったのだ。
作品名:33粒のやまぶどう (短編物語集) 作家名:鮎風 遊