33粒のやまぶどう (短編物語集)
「祐輔、お父さんの死に目に会わしてやることができなくって、ゴメンなさいね」
葬儀が終わっても、母は涙を流した。
「お母さん、良いんだよ。絶望一飲一啄という茶碗をもらってるから」
私はこれがどういう意味なのかわからない。それでも母を慰めた。
しかし母は父の思いを理解していた。
「あの陶器は……、お父さんの曜変天目茶碗だよ。1千年もの間、誰も作り得なかった焼き物、それを作るんだと、退職してから焼き続けてきたの。だけど、成し遂げられなかったわ。随分と落ち込んだ時もあったようだけど、絶望を一飲一啄しながら、あの人は慎ましく生き抜いたんだよ。その証があの最後の作品なの」
そう言えば、父は第二の人生を陶芸に捧げていた。それにしても曜変天目茶碗の制作に、第二の人生をかけていたとは? 私は驚いた。
作品名:33粒のやまぶどう (短編物語集) 作家名:鮎風 遊