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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 されども類人猿たちは母音の発声だけで互いに意思疎通をし、助け合って生きていた。
 ここにその一例がある。

 霊峰キリマンジャロを望む地に、ウウアアという小さな森があった。そこには未亡人のアアイと、その娘のアアエが慎ましく暮らしていた。しかし、最近バナナやドリアンの木が枯れ、ひもじい食事しか取れずにいた。
 木の上から眺めると、2キロ先にオイオイと呼ばれる森がある。最後に残った豊かな森だ。そこへ行けば果物がたわわに実ってることだろう。飢餓状態にあった母と娘は、いつの日かあの森に移り住みたい、そんなことを夢見て、生きる希望を繋いでいた。

 だが、それは叶わぬことだった。なぜならサバンナにはライオンなどの猛獣が多く生息している。類人猿の不器用で遅い四足歩行で移動を試みても、すぐに追い掛けられ、餌食となってしまう。
 母と娘はもう為す術がない。ただ寄り添い合って、天国へと召されるのを待つしかなかった。
 そんな進退窮まった時に、「アアアーン!」の雄叫びが上がった。亡き亭主の親友、オオオが綱渡りをしてやってきてくれたのだ。

 オオオは死の間際に頼まれていた。アアイとアアエの女たちが飢えた時には助けてやって欲しい、と。オオオにとって、それは男の約束。早速、銜(くわ)えてきたバナナを母と娘に渡した。二人は感謝の涙を流しながら分け合って食べた。

 それが終わり、母のアアイはきりっと背筋を伸ばし、オイオイの森を指差した。最初何のことかわからなかったオオオ、だがすぐにピンときた。あとはおもむろに胸に手を当て、男の深い思いを絞り出したのだった。
── イオイエ エアウア ウウアイアイ ──と。