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横須賀・横浜旅行記 ふんわりと、風のごとく 第四部

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第九章
まだまだ京浜急行線

 金沢文庫駅の手前には車両基地があった。赤い電車が大多数だけれど、その中にはこの電車と同じ銀色の電車も少し止まっていたし、相互直通運転を行っている都営地下鉄浅草線の白い電車も止まっていた。車内からそれらを眺めているうちに、金沢文庫駅に着いた。ここで快特列車を先に通すそうだ。
 列車を降り、改札を出る。この辺りは何があるのだろうか。西口に出て案内の看板を見てみる。ここからバスに乗ればいろいろと見所があるみたいだけれど、そろそろ PASMO にチャージされているお金が危ういので、さすがに短い区間でもバスは乗れない。いずれにせよ、タバコが吸いたかったので、喫煙所かタバコの吸えるお店を探して歩く。さすが横浜。タバコを吸える場所がない。駅前のミスタードーナツに喫煙席があるようだったが、今は全面禁煙の時間帯だった。結局、西口にはタバコを吸えるような所がなさそうなので、地下道を通って東口に行ってみた。西口はバス乗り場やショッピングセンターがあって賑やかだったけれど、東口は静かだった。そんな東口を歩いていると、またカフェがあった。ここが喫煙OKならば、少しコーヒー代が高くても入ってしまおう。店先には分煙の文字が。よし、入ろう。何だかカフェ巡りの様相を呈して来た今日の旅だ。30分ほど、ジャズがかかるアットホームなこのカフェで拙稿をまとめて時間を潰してお店を出ると、目の前に商店街があった。少し歩いてみよう。何だかカフェ巡りであり、また、商店街巡りのようにもなって来た。
 短い商店街のようだ。少しずつ西に傾いてきた太陽。その陽光に包まれたこの商店街は、個人商店もあれば、チェーン店もあった。昔ながらの魚屋さんやおもちゃ屋さんもあった。そのおもちゃ屋さんの前には、僕がガキの頃に流行したような 20 円でできるビデオゲームが置いてあり、それに熱中している塾帰りの子ども達が印象的だった。今の子ども達にも、あのようなゲームは受け入れられるものなんだなあ。
 あのひとと歩きたい風景は、5 分ほどで終わってしまった。商店街を抜けると、駅前のタクシー乗り場があり、その反対側にひっそりと駅の入り口があった。階段を上がり、改札を通ってプラットホームへ行くと、すでに品川行きの鈍行と、それをここで追い越す行きの快特列車が止まっていた。僕が乗る鈍行は 1500 形という電車。僕が小学生の頃に初めて買ってもらった京急電車の模型が、この電車の模型だった。快特列車は 2100 形という、多分、主に快特列車用と思われる電車だった。
 発車を告げるブザーが鳴ると、快特列車のドアが閉まって、ドレミファソラシド~♪と音を立てながら発車して行った。2100形のモーター音は、偶然ではあるけれど、ドレミファソラシド~♪という音で、〝歌う電車〟として有名だ。しかし、この音を発するための部品は、一気に電圧をかけないとすぐに壊れるそうで、保守・点検が大変ということから、今では交換が進んでいるのだとう。その部品はドイツ製の部品なのだそうだけど、国内製のものに交換されているそうだ。これはその部品が交換されていない編成だった。ちなみに、2100形と同じ部品を積んだ電車はJR常磐線でも走っていた。けれど、そちらはあまり有名にならないうちに、やはりドイツ製のその 部品を国内製のものに交換された上で、ローカル線を走るようになってしまった。
 さて、続いて発車の鈍行に乗り、次はどこへ行こうか。路線図を見てみると、何やら気になる名前の駅があった。屏風浦。次はこの駅で降りてみよう。



第十章
戸部に向かう。

 次の駅は能見台。野球が好きな人間なら、タイガースの能見篤史投手を連想して〝のうみだい〟と読みたくなるところだけれど、正解は〝のうけんだい〟だそうで。なだらかな丘に家々が建ち並ぶという僕が好きな風景の中を行く赤い電車は、京急富岡駅を過ぎ、杉田駅に到着。その駅名を聞いて、学生時代の先生を思い出したのは、ごく個人的な話。その次の駅が、屏風浦駅。何となく、海が近いイメージだ。
 降りてみると、四角錐が屋根に乗っかった駅舎は印象的だった。しかし、他にこれと言ったものはない。駅前にカフェがあったけれど、今は入る気がしない。目の前に大きな道路があり、その脇にバス停があった。とりあえず、どこへ行くバスが行き来しているか見てみると、港南台とか根岸駅といったJR根岸線の方へ行くバスが多かった。そのバスの中に、途中、市電保存館なる場所を通る路線があった。行ってみたかったけれど、時間の都合で割愛。結局、屏風浦駅では、PASMOに1000円チャージしたのと、リポビタンDを飲んでおしまい。次へ行くことにした。
 列車を待っていると、この路線の鈍行は6両編成であることに気付いた。車両も一両当たりが18メートル。JRの通勤型など、一般的な電車の大多数が20メートルなので、相当、コンパクトな編成ということになる。よく採算が合うなあ。車窓からの風景は、相変わらずの僕が好きな風景。こんな風景を、ぼんやりと、あのひとと二人でこの赤い電車に揺られながら眺めたい。その願いが叶うのは、いつの日か。
 さて、次は黄金町、日ノ出町、そして戸部の3 つの駅で降りてみようと思う。黄金町にしても日ノ出町にしても、何だか名前がいい。今度の電車もまた、800 形だった。廃車が進んでいると聞いていたので、そうそう乗れない電車かと思えば、そうでもなかったようだ。そんな 800 形に揺られて先へ進む。何かと名前をよく聞く上大岡駅とか、プラットホームに〝観音〟の看板があった弘明寺駅なども気になったけれど、涙を飲んで割愛。井土ヶ谷駅を経て、南太田駅に到着した。ここでエアポート急行列車と快特列車の通過を待つ。車内保温のため、4 枚のドアのうち、真ん中の 2 枚のドアを閉め切ってドアが開いた。
 丘陵地帯にある南太田駅には 4 本の線路があり、真ん中の 2 本が通過用で、両脇の線路は通過待ち用。通過待ち用の線路にプラットホームが横付けされている。僕が通勤に利用している西武新宿線の沼袋駅と同じ構造だ。向かいの通過待ち用の線路にも鈍行が止まっていた。その鈍行を、羽田空港のラッピング電車が追い越して行く。このラッピング電車は、赤がシンボルカラーの京急にあって青い電車と、まさに異色の存在だ。
 列車が通過する時だけが賑やかな丘の上の駅。通過待ちの退屈しのぎに路線図を見ると、京急線は南武線の支線も通っている駅に止まることを思い出した。それだったら、戸部駅周辺を歩いた後、再び京急線に乗って八丁畷駅まで行ってしまうことにした。急な予定変更も、ノープランの旅の楽しみだ。 僕が乗っている列車をエアポート急行列車が追い越して行き、快特列車も追い越して行く頃には、だいぶ日も傾いていた。これでは黄金町と日ノ出町の両駅周辺を歩いていたら、大変なことになってしまう。そのまま戸部駅へ向かってしまおう。