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相思花~王の涙~【前編】

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 パク貴人の考えは正しかった。これから先、王の寵愛を得られることもないのならば、せめて今の地位を守り通し安楽な生活を手放さないようにするのが賢い生き方というものだからである。
 あの小娘は空恐ろしい。どのように装えば、微笑みかければ、若い王の心を虜にできるかを知り尽くしている。はにかんだ微笑も、恐らくは閨で王に抱かれて浮かべる涙さえも、すべてが計算され尽くした上でのものに相違ない。
 あの狡賢い妖狐に楯突いたからとて、到底敵うはずもなく、ましてや、あの魔性の娘に王は魂も何かも絡め取られてしまっている。王に睨まれて後宮で生きてゆけないのは当然だ。
 パク貴人の決断は早かった。後はもう二人の側室たちを見ようともせずに、去っていく。
 崔淑儀が慌てて後を追う。
「待って、お姉さま」
 残された李淑媛が腹立ち紛れに唇を噛みしめたその時、前方で華やかな笑い声が上がった。次いで、王の愉しげな笑い声までもが重なる。眼を凝らすと、小道を寄り添って歩いてゆく王とシン尚宮のものだと判った。
 見つめ合う二人の間には最早、何人なりとも立ち入る隙間もない。
 つとシン尚宮が振り向いた。艶やかな、それこそこの世の男というすべての男の心を一瞬で絡め取るような蠱惑的な微笑を浮かべて。
 その挑戦的な笑みさえも見惚れるように妖艶で美しいと思えるのが今は癪でならなかった。
 二人はゆったりとした足取りで歩み去り、小道の角を曲がり見えなくなった。

「―っ」
 李淑媛はどうにも激情を抑えかね、傍らに咲く百合の花をむしり取り、滅茶苦茶に地面にたたきつけた。
 妖魔、女狐め。
 シン尚宮の好きだという花を滅茶苦茶にしてやることで、少しは鬱憤が晴れる。この花のように、あの生意気な小娘を打ち据えてやれたら、どんなにかすっきりすることだろう。
 あの女はとんでもない妖婦だ。見かけは虫も殺さぬ優しげな儚い美貌の下に怖ろしい本性を隠し持っている。
 李淑媛はギリっと唇を噛みしめたまま、その場に立ち尽くす。あまりに強く噛んだため、血が滲んでいるのが自分でも判った。
 これがソナの考えた?罰?だったのである。三人の側室たちがいつも散歩する道だと知って、わざと時間を合わせてまで王と仲睦まじげに寄り添うところを見せつけたのだ。
 うだるような夏の朝が終わろうしている。今日も一日暑くなりそうだと李淑媛は他人事のように考えつつ、雲一つない蒼穹を見上げた。
 血の匂いが、する。
 あの娘は宮殿に血の雨を降らせるかもしれない。永宗の後宮は不気味な嵐の予感を孕んで、今、風雨の前の静けさに包まれていた。
 生温かな真夏の風が庭の濃密な大気をかすかに揺らした。

              (前編・了) 
  
  

 
 

 
   



     


   

  
プレナイト(和名 ぶどう石)
 石言葉―健康美。持ち主にとって不要なものを排除し、真実を見抜く。決断力・直感力を高める。 
 
百合
 花言葉―威厳、純潔、無垢。あなたのは偽れない。 
 
 

 
   
 あとがき

 何だかんだと言っている中に、もう三月、桜が咲く本格的な春まで、あと少しです。毎年、この時期をとても愉しみにしている私です。
 さて、今月は何と二年ぶりに韓流時代小説に挑戦してみました。韓流から離れて二年、日本の江戸、現代、鎌倉とあらゆる時代を描いてきました。離れたといっても、韓流時代劇はずっと見て愉しんでいましたし、相変わらず身近な世界だったのです。
 ただ、色々な時代劇を見ても、また描こうかなという気持ちには今一つならなかったというのが正直なところでした。ところが、あるドラマとの出逢いが私の気持ちを変えることになりました。
 ブログでも度々ご紹介している?花たちの戦い〜宮廷残酷史〜?。既にブログの方で語っているので、詳しいご説明は避けますが、朝鮮王朝稀代の妖婦貴人チョ氏(ヤムジョン)の生涯を描いたものです。
 ヤムジョンは仁祖の側室です。このドラマ、冒頭は仁祖が清国の大軍と皇帝の前で拝礼させられるという屈辱的なシーンから始まりました。本当に歴史的瞬間をこの眼で見ているかのような圧倒的なシーンで、私はまずここから引き込まれてゆきました。
 久々に?歴史物?のおもしろさを堪能したドラマだったのです。加えて、ヤムジョンのしたたかさにも興味を憶えずにはいられませんでした。何故でしょうか、最初に韓国時代劇にハマり、その世界を小説で表現してみたいと思ったときも、きっかけになったのは?妖婦チャンヒビン?、朝鮮三代妖婦と呼ばれる嬉嬪チャン氏の生涯を描いたドラマでした。
 清楚な王妃さまや姫さまのお話よりは、妖婦に萌える性格なのでしょうか―笑。かどうかは判りませんが、かきたてられるものがあったのは確かだと思います。
 ヤムジョンのドラマと出逢った時、長らく自分の中で止まっていた?何か?が動き出すのを感じました。
 頭の中に一つの光景が浮かびました。ドラマによく出るように、宮殿の正門が見え、その前に立っている少女がいました。その子は粗末な身なりをして、小さな手荷物を持っています。大きな眼をきらきらさせ、好奇心に溢れた様子で門を見上げているのです。
 そこまででした。その時、私はもしかしたら、また韓流小説を自分は書くかもしれないと思ったのです。でも、まだ門は開きませんでした。ヤムジョンのドラマをそれからも続けて見ている中に、頭の中では、とうとう門が開きました。そこに少女が意気揚々と入っていくのが見えました。
 それから、その少女がどうなったか? それはこの物語をご覧下さいませ。
 長々と語った割には、たいした作品は描けていないと自分でも思います。今回は久しぶりなので、あくまでも試作品で愉しく描くということをモットーにしています。
 また、この作品を描く前後、本当に書き手としての私の身辺で色々とありました。具体的にはお話できませんが、今後のことも含めて色々と思い悩んだのです。
 そういう影響がやはり出ていない―とはいえないかもしれません。ですが、ソナの物語はまだまだ後半へと続きます。来月、その後半となる物語を描く予定です。
 今もまだ悩みは解決できたわけではありません。しかし、前編を読み返しつつ改めて思出したのは、主人公のソナがハンへの愛と野望の狭間で揺れ動く時、自分自身で考えて選んだ道を信じるのだと思うシーンです。
 今回もまた私はヒロインに大切なことを教えて貰ったような気がします。
 自分は自分で選んだ道を信じるしかない。結局、そういうことなのですね。後半はそういう意味でも、前半ではあまり描けなかったハンとソナの熱い場面も情感たっぷりと描きたいなと思っています!
 それまで好きな小説を読んだり、ドラマを見たりと心に潤いを与えて元気になって、また後編に全力で取り組みたいと思います。
 それでは、ここまでご覧下さり、ありがとうございます。カムサハムニダ。
 恐らく、後半を描く頃は、桜も真っ盛りだと思います。愉しみだけど、執筆とカブッたら、花見はどうなる?
 まあ、それはそれですね。
              東 めぐみ拝

桜咲くまであと少しの日に
2015/03/05