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三題小説『街中+鯨+超能力』

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 この街に危機が訪れている。
 ぼくが言うのだから、そうなのだ。ぼくだけにしか見えない大きな災いは、空を漂いながらこの街に少しずつ近付いているのだ。
「へー、そうなんだー」
 めんどくさそうに、ぼくの友人はスターバックスのコーヒーを煽った。
 いつからだろうか。この友人がぼくの言うことを真面目に訊かなくなったのは。多分、中学を卒業する頃だろうか。もう子供じゃないさ、と言い放ち、彼はぼくの台詞に耳を貸さなくなったのだ。
 宵の街を跳梁跋扈する危機らと闘っていたぼくを、彼はいつも励ましてくれた。現に、ぼくは彼の言葉で何度も立ち上がることができたのだ。けれど、いつの間にかその視線は、夢見がちな子供を見る目に変わっていた。
 決してぼくは夢見がちな子供なんかじゃない。今は使うことができないが、ぼくには超能力があるのだ。その超能力を駆使して、ぼくはこの街の危機と闘い続けていたのだ。
 けれど、今回の危機は格が違ったのだ。だから、ぼくはこうしてかつての友人に会って、助力を願った訳だ。
 彼には資質がある。心の中にきらめく光があるのだ。次元を渡り、助けを求める人間の力になるような、灯を持っているのだ。まだ目覚めていないだけで、彼はきっと偉大な『平定者』となるだろう。
「俺は決してプレインズウォーカーではない」
 ぷれいんずうぉーかー? なんの話だろうか?
「……なあ、いつまでそんなこと続けるんだよ」
 蔑みに満ちた目で、彼はぼくを見つめる。
「ガキの頃はさ、そーいう夢にハマるのも若いから良いかな、と思って付き合ってたけどさ。お前、もうそんな歳じゃないだろ。もうさ、四十だぞ。結婚もしなければ、まともな職に付こうとしない。『ぼくはこの街の平和を守っている』って、言ってもね、もう限界なのよ、あんた」
 なんでそんなことを言うのだろうか。現にそれは、邪悪な姿を取りこの街に迫っているのに。
「いいかい、あんた。映画『フック』じゃ、ピーターパンですら大人になってたんだ。次はお前の番なんだよ」
 彼は分かっていない。ぼくらが選ばれた人間であることを。例え歳を重ねようと、ぼくは使命を果たさなければならないのだ。
「いいかい、ぼくの大切な友人よ。例え信じられなくても、ぼくらには、いや、人間は誰しも超能力を持っているのだ。『前に進む』、『夢を叶える』、『大切な人を守る』。それは必ずとも目に見える形ではないだろう。けれど、人間はちょっとしたきっかけでその能力に目覚めるんだ。自分の能力の限界を超える能力、『超能力』にっ!」
 ぼくは立ち上がる。街中のカフェで大仰に、舞台にでもいるかのように、大見得を張る。
「さあ、壁を超えろ! そのハンマーを振りおろし、常識の壁を壊すんだ!」
 そうして、ぼくは彼に手を差し出す。彼は目を細め、ぼくを見つめた。すると、彼はぼくの後ろにあるモノを見て、その表情を強張らせた。
「どうやら、灯は点ったようだね」
 彼が何を見たのか、それはぼくにも伝わってきた。幼き日の約束。共に人々の幸せを守ろう、という純粋で高潔な約束。舞台の上で舞い踊るぼくの姿を楽しそうに見つめる彼と、彼の楽しそうな視線を思い出す。
 ――そうして、ぼくらは空を見上げる。そこに浮かぶのは邪悪な色をした巨大な鯨。全てを呑み込む大口を持った太古の邪神。その肥大した巨大な身体はきっとぼくらを押し潰すのだろう。例えばそれは社会という形を取るだろうか。それとも、群集心理だろうか。なんでもこい、ぼくはもう一人じゃない。
 ぼくらは戦う。この街を守る為に。例え片方が躓こうとも、もう片方が支える。その小さな超能力を携えて、戦って行くのだ。
「さあ行こう! ぼくらの戦いはここから始まるんだ――」