6cmの彼女
薄荷水(はっかすい)
蜘蛛の巣にひっかかった蝶を助けたのは、明日、ボロボロの羽根だけになっているのを見たくなかっただけ。
「きみは?」
問われて我に返った。
店の一角。
少年が僕を見ている。蓮の花を模した灯りが揺れている。
「なに」
「薄荷水だよ。清明の夜に、他になにがある」
表に並ぶ花の名。それの種類なのだろうが、全く見当がつかない。
「ご注文は」
「あ、ツツ、」
「菜の花。二つ」
彼は僕を遮って注文を通した。
「ツツジは美味いけれど毒があるんだよ。酩酊する」
それで酷い目にあった、と呟く。
運ばれて来たのは光を溜めた黄色。蜜のような味に僕は眉をしかめた。
「これがいいんじゃないか」
彼が笑う。
気がつくといつもの道にいた。
蝶がふわりと遠ざかる。