6cmの彼女
6cmの彼女
たしか、こんな童話があったはず。
僕は植木鉢を前にそう思った。
脇に差したラベルを見る。
そう。
これはただのチューリップ。久しぶりに外に出た時に、なんの気なしに買った球根だ。
でも、それなら。
花の真ん中にいるのは小さい女の子。はちみつ色の長い髪と抜けるような青い瞳の。
彼女は僕を見上げて微笑んだ。
童話では、彼女は窓から入って来たカエルにさらわれてしまう。
だから僕は窓を閉めた。
ずっと。あの日から。
ふたりだけの世界で、僕は彼女を育てる。
ある日、サイレンが聞こえた。
すりガラス越しに紅い光が回っている。
中のようすをうかがっている。
どうしたのだろう。
ここには僕と、僕と同じ背丈にまで育った彼女しかいないのに。