鏡の中
日曜日の午後。広瀬は今日もマシンジムで汗を流していた。
広瀬が、ラットプルダウンと取り組んでいると、後ろを通りかかったジムのトレーナーの若い女性が声を掛けた。
「広瀬さん、バランスが崩れてますよ。」
女性トレーナーはそう言うと首を傾げた。
「いつもは左側に偏っているんだけど、今日は右側に偏ってますね。いつもと逆。」
女性トレーナーの声に、広瀬は腕を止めてトレーナーを振り返りながら愛想よく応える。
「ああ、いつも左に偏るので、意識して右腕に力を入れているせいだろう。気を付けるよ。」
そう言った広瀬はタオルで顔の汗を拭うと、左の眉をタオルでこすった。左眉の目尻に近い部分だけ、眉毛が縦に切れているのは、きっと子供の頃に怪我をした名残だろう。
完
作品名:鏡の中 作家名:sirius2014