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走れ! 第五部

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護国神社へのお参りを終え、境内を出て弘前公園の中を歩いた。夏の日差しを浴びながら、濠沿いの桜並木を歩く。そのうちに、追手門の近くにある弘前城植物園にたどり着いた。これも弘前公園の施設で、さっきの有料エリアの入園券は、そこにも入れるものを買っていた。なので、せっかくだからそこも見て行くことにした。入口でもらったパンフレットによると、その植物園の敷地面積は8ヘクタールほどで、1500種類もの植物が12万本近く植わっているそうだ。なかなか見応えがありそうだった。おれ達が行った時季は、ハスの花やノウゼンカズラが咲いていたな。それらの草花を見ながら歩いていると、ほんの少しだけアジサイが咲いていた。
「あれ?こんな時期にアジサイが……」
 涼子さんが不思議そうに言いながら、アジサイの咲いている場所に歩み寄って行った。
「青森は関東より暑くなる時期が遅いんで、それで今もまだ咲いているんでしょうね」
「おお、なるほど!」
 涼子さんは納得していたけれど、実は憶測でものを言ってしまったんだよね。
 ちょうど植物園の中心部に行くと、大きな花時計があった。その花時計は、秒針まで動く立派なものだったよ。また、この植物園には日本庭園もあってな。その庭園の様式は、大石武学流という江戸時代末期に津軽地方の歴史や宗教、風土を背景に起こったとされるものらしい。なかなか綺麗な日本庭園で、日本庭園が好きだという涼子さんも楽しそうに眺めていた。この日本庭園の他に、さすが青森県にある植物園だよな。たくさんのブナが植わっている白神山地生態園というのもあった。白神山地に植わっている木と言えば、ブナだよ。
「まるで森林浴をしてる気分だなあ」
 涼子さんがそう言うほどに、さっきとは風景が一転して森林の中にいるようなものになる。しばらく二人してこの森林の中をゆっくりと歩いた。
 まるで白神山地を歩いたような気分で白神山地生態園を出て、近くの入園口から植物園を出ると、ちょうど目の前に追手門があり、市役所前のバス停もすぐ近くにあった。しかし、次のバスまでにもうしばらく時間があるようだった。
「この近くに何かないかな……」
 涼子さんが、例のガイドブックのページをめくりながら言う。
「ん?津軽藩ねぷた村……?」
「ああ、そんなものがありましたね」
 この近くに、弘前ねぷたの資料館があったことを思い出した。何しろ、ガキの頃に行ったきり、そこにも行ってなかったからすっかり忘れていた。
「せっかくだから行ってみよう!」
 と、涼子さんはねぷた村に向かって歩き始めた。濠に沿って桜並木を見ながら歩く。10分ほど歩けば着くようだった。
「ねえ、ねぶたとねぷたってあるけど、どう違うの?」
「開催されている場所と形が違って、青森市の周辺で行われるのがねぶた、弘前市の周辺で行われるのがねぷたです。形は見れば分かりますよ!」
 おれが説明すると、涼子さんは納得したようにうなずいた。
 やがて、ねぷた村にたどり着いた。窓口で入園料を払い、薄暗い有料エリアへ入って行くと、巨大な扇形のねぷたがおれ達を出迎えてくれた。
「おお、これがねぷたっていうんだね!」
 立体的な青森のねぶたとは違い、扇形をしていて、そこに勇ましい絵が描かれている弘前ねぷた。それを見た途端、ガキの頃に見た勇壮なねぷた祭りを思い出した。涼子さんも初めて見るねぷたに見入っていた。
 展示されているねぷたの脇には、祭囃子を奏でるのに用いられる太鼓が置いてあった。太鼓と言っても、和太鼓のようなものではなく、つづみを巨大化したような独特の形をしており、細長いばちで叩いて鳴らす。二人してその巨大な太鼓を眺めていると、ねぷたの衣装を着た係員が3人来て、
「今から実演を行います!」
 と、ギャラリーに向かって言い、その太鼓やら笛やらを使って祭囃子の実演を始めた。独特なリズムの懐かしい祭囃子に、ちょっと目頭が熱くなっちゃったね。
 一通りの演奏が終わったところで、係員が実際に太鼓を叩いてみたい人を募った。
「せっかくだから、行って来よう!」
 と、涼子さんは立ち上がり、係員からばちを受け取った。また祭囃子が始まり、涼子さんも隣にいる係員の見よう見まねで太鼓を叩いていた。なかなかうまかったよ。演奏が終わった後、
「いやー、お上手ですね!」
 と、係員の人も驚いていたぐらいだ。
 演奏の実演が終わり、展示されているねぷたを取り巻くように設置されているスロープを歩く。それに沿って展示されているねぷたの絵や「津軽凧絵」というねぷたやねぶたのような絵が描かれている凧の絵を見て歩いていると、ちょうど展示されているねぷたの後ろに来た。ねぷたの後ろには、必ず「見送り絵」という女性の絵が描いてある。美しく、それでいてどこか勇ましいそれを見て、何だか涼子さんも「見送り絵」みたいな女性だなと思った。もちろん、本人には言わなかったけどね。
 そんな思いを秘めながら、岩木山周辺の観光案内コーナーとか、「津軽塗」などの青森の工芸品を紹介するコーナーを見て回る。涼子さんはどれも興味深そうに見入ってたよ。その先には、津軽三味線の資料が展示されているコーナーがあった。津軽三味線で演奏されるもので代表的なものと言えば、じょんがら節だな。展示物を眺めていたら、三味線を持っている人々が現れた。どうやら、津軽三味線の実演が始まるようだった。三味線を持った3人のうち、一人が聴衆に向かって挨拶を述べると、いよいよ演奏が始まった。何でも、これから演奏する人々は、全国大会A級チャンピオンクラスの奏者のようだった。津軽三味線は、ばちを三味線に叩きつけるようにして弾くのが特徴だ。じょんがら節の力強い旋律に、おれも涼子さんもすっかり魅了されてたよ。特に、おれにとってじょんがら節は、祖国の音楽という感じがするから、本当に懐かしかったよね。しばらく二人して津軽三味線の音色に聞き惚れていた。演奏が終わると、辺りは拍手に包まれた。
「いやあ、津軽三味線の曲は初めて聞いたけれど、なかなかいいね!」
 涼子さんが満足げに言う。おれも久々に津軽三味線の演奏を生で聞けて、本当に満足だったよ。
 おれ達を初めとした聴衆を魅了した奏者も裏手に消えたところで、おれ達も次へ行くことにした。この先には、また日本庭園があった。そこには大きな池もあり、たくさんの鯉も泳いでいた。池の淵では鯉のエサも売っていた。
「エサでもくれてあげよう」
 涼子さんはエサの入った袋を手に取ると、料金箱に100円玉を入れた。すでに池では鯉がエサを求めて淵に集まっており、エサをまくと、我先にと鯉がエサを食べる。とにかくたくさんいるから、おっかないぐらいだったよね。涼子さんも怖がっており、最後は残りのエサを全部ばらまいていたよ。
作品名:走れ! 第五部 作家名:ゴメス