走れ! 第四部
またフラフラと歩き、おれ達は有料エリアの中にある北の郭という場所を歩いた。濠に囲まれたそこには、桜の木がたくさん並んでいた。
「春に来たら綺麗なんだろうなあ……」
涼子さんがそう言った。満開の桜に包まれたここの景色。ガキの頃に見たからうっすらとしか記憶にないし、あったとしてもおれの乏しいボキャブラリーじゃ、とても言葉では言い表せないよ。それが何だか、ちょっと悔しいよね。
北の郭にある籾蔵の跡や「子の櫓」と呼ばれる櫓の跡を見て有料エリアを出て、また無料エリアの広々とした場所を歩く。平日の昼間の弘前公園にはほとんど誰もおらず、たまに散歩している地元の人と思わしき人とすれ違うぐらい。観光客なんて、おれと涼子さんぐらいだったから、まるで二人きりの世界だった。それを満喫するかのように、涼子さんは鼻唄交じりで辺りの景色を眺めていた。
歩いていると、大きな灰色の鳥居に出くわした。それは青森県の護国神社で、明治維新後に勃発した数々の戦争による青森県出身の戦没者を祀ったもの。境内には第二次世界大戦中に使われた津軽という軍艦を称えた碑もあった。せっかくなので、お参りして行くことにした。境内に入って行く。神聖な雰囲気の森の中に、古風で巨大な本殿が鎮座していた。二人して賽銭箱に10円玉を入れて手を合わせる。ふと、手を合わせている最中に目を開けて涼子さんを見ると、じっと目を閉じて真剣に祈りを捧げていたが、やがて涼子さんは目を開けておれの方を見ると、ニコッと笑って、
「何をお願いしたの?」
と、おれに訊いた。
「内緒です!」
そう答えたけれど、実際は何も願い事なんてなく、ただ形だけ手を合わせていた。