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走れ! 第四部

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翌朝、おれは浅虫温泉駅を通過する貨物列車の音で目を覚ました。少し腹の辺りがムカムカする感じだったが、頭痛や吐き気などはなかった。その頃から酒は強かったのかも知れないな。
 昨晩は居間で寝たはずなのに、おれはいつの間にか来た時に荷物を置いた部屋で寝ていた。きっと、宗一郎叔父さんが運んでくれたのだろう。居間からはNHKのニュースの音が聞こえて来た。何時だか分からないが、もう宗一郎叔父さんは起きているようだった。居間へ行くと、宗一郎叔父さんが朝飯を食いながらニュースを見ていた。時計を見ると、7時半だった。
「お、起きたか!」
 おれに気づき、宗一郎叔父さんが言う。
「ごめんなさい……。ご迷惑をおかけしてしまって……」
 そう言うと、宗一郎叔父さんは大きな声で笑い、
「昨夜の姉ちゃんもそう言ってたよ!」
 と言った。涼子にまで迷惑をかけてしまったし、頭まで下げさせてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいになったが、それを悔いる暇もなく、
「かわいいな。彼女か?」
 と、宗一郎叔父さんはおれに言った。
「い……、いえ……、そんな……、違いますよ……!」
 しどろもどろになっておれが答えると、宗一郎叔父さんは、またも大声で大笑いした。
「お前らがどんな間柄か知らんが、あの姉ちゃんは酒が強い!二人で一本、開けちまったよ!」
 と、床に転がっていた日本酒の一升瓶を拾い上げて宗一郎叔父さんが言った。話を聞くと、2時間近くも二人で時事ネタやその他、ざっくばらんな話で盛り上がったらしい。今のおれだったら、混ざりたかったよな。
 その後、ニュースを見ながら宗一郎叔父さんが用意してくれた朝飯を食い、一休みしていると、
「おはようございます!」
 と、玄関から声がした。涼子さんが迎えに来たようだ。そう言えば、この日の待ち合わせ場所などを決めていなかった。前の日にそんな暇もなかったからな。
 涼子には居間で待っていてもらい、支度をして二人で家を出る。
「また来いよ!」
 そう言って見送ってくれた宗一郎叔父さんの顔は、おれが来た時よりも嬉しそうだったよ。
「お酒、強いんだね!」
 駅までの道を歩きながら、涼子さんが言った。
「生まれて初めてのお酒だったから、何とも言えません……」
 おれがそう言うと、涼子さんは大笑いをして、
「そうだったんだね!」
 と言う。今日の朝は、いつもより明るい朝だなと思った。
 浅虫温泉駅に着くと、もうすぐで青森行きの列車が来るようだった。改札口を通ってプラットホームへ行くと、ちょうど列車の到着を告げる案内放送が入った。八戸の方角からヘッドライトを輝かせて2両編成の旧型のディーゼルカーがやって来た。白い車体に赤い帯が入ったやつだ。こんな車両がまだここを走っていたのかと驚いたよ。後から調べたんだけど、野辺地から出ている大湊線という路線からの列車のようだった。涼子さんも都会では乗れないディーゼルカーに喜んでいた。二人して海側のボックス席に座り、窓の外を見ていた。車窓からは朝陽を浴びてキラキラ輝く陸奥湾がよく見えた。
 列車は20分ほどで青森駅に着いた。今回の旅では2回目の青森駅だが、この日はここで降りての観光はしなかった。
「ここで奥羽線に乗り換えて、弘前に行きます!」
 そう言いながら、おれは涼子さんを連れて奥羽本線乗り場へと向かった。奥羽本線乗り場には、すでに弘前行きの列車が止まっていた。ちょっと前まで京浜東北線で走っていた青い帯の電車のローカル線版という感じの電車で、紫色の帯の電車だ。ローカル線らしく2両編成だったけれど、どうやら涼子さんはまたディーゼルカーに乗れると思っていたらしく、何だか残念そうだった。
 青森駅を出た列車は、今では東北新幹線の終着駅となっている新青森を過ぎ、鶴ヶ坂という駅の先にある長いトンネルを抜けると、リンゴ畑の中、津軽平野でも特に岩木山がよく見える辺りを走る。
「おお、あれが岩木山か!」
 涼子さんが車窓から見える岩木山と、例のガイドブックの岩木山を見比べて言う。この日は前日に引き続いて晴れ渡っており、津軽富士の異名を持つ岩木山もよく見えたよ。五能線が分かれる川部という駅を過ぎて、青森駅から乗った列車は弘前駅に着いた。思い出話なのでところどころ省略したからすぐに着いたように思うだろうけど、実際は青森から弘前まで、45分ぐらいはかかったかな。
「ここから碇ヶ関まで、また乗り換えて行きますが、その前に弘前を観光しましょう」
「さっきガイドブックで見たけれど、城跡の公園があるみたいだね!行ってみたい!」
 涼子さんがそう言う。おれは最初から弘前城址に造成されたその弘前公園に行くつもりでいたんだ。おれも弘前はそこぐらいしか知らなかったからな。
駅前からバスに乗って市役所前というバス停へ行き、そこから歩くと弘前公園がある。降りたバス停からだと追手門が近い。
「おお、すごいなあ!」
 荘厳な追手門を見て、涼子さんが言う。本当に立派な城門だった。それをくぐり、公園の中に入った。この先に本丸があること、ゴールデンウィークの頃には見事な桜が咲き、桜祭りが盛大に行われること、冬は雪で造った灯篭が並ぶ雪灯篭祭りが行なわれることなどを話すと、涼子さんは楽しそうに聞いてくれた。
 桜の並木道を歩いて行くと、だんだんと本丸が見えて来た。本丸の周辺は有料エリアになっており、涼子さんが是非見たいと言うものだから、入ってみることにした。有料エリアに入ってすぐに見えるのは、弘前城の本丸の天守閣。
「へえー、全国に残る数少ない天守の一つなんだ……」
 涼子さんが、目の前にある天守閣と有料エリアの入り口でもらったパンフレットとを見比べて言った。
「ここ、春になって桜が咲くと本当に綺麗なんですよ!」
 遠くに天守閣を見ながら歩いていて、濠の跡に架かる橋の上に差し掛かった時、おれは涼子さんに教えてあげた。そして、ガキの頃に見た弘前公園の桜と桜祭りの賑わいを思い出し、その中にいるおれと涼子さんを妄想してしまった。何やってるんだろうな。その頃のおれに言ってやりたいよ。馬鹿な妄想なんてしてるんじゃないってね。
「そうだ!昨日、一緒に写真を撮ろうって言ってたけど、すっかり忘れていたね!」
 涼子さんが思い出したように言った。前の日はいろいろあったから、そんな余裕はなかったからな。それで、おれはリュックサックからカメラを取り出した。
「あの天守閣を背景に撮りたいね!」
 と、涼子さんは言い、どこかにちょうどいい場所がないか、そして、誰かカメラのシャッターボタンを押してくれそうな人がいないか探し始めた。
「お、あそこがいいね!すいません、シャッター押してもらえますか!」
 ちょうどいい撮影場所と同時に、シャッターボタンを押してくれそうな人を見つけたようで、涼子さんは近くにいた初老の男性の声をかけた。その男性は快く引き受けてくれたようで、
「さあさあ、並んでください!」
 と、おれ達に言った。言われるままにおれ達は天守閣を背景に並んで立ち、記念写真を撮ってもらった。男性からカメラを返してもらい、礼を言って、またそれぞれの行き先へ歩き始めた。
「いい記念になったね!」
 涼子さんは嬉しそうに言った。
作品名:走れ! 第四部 作家名:ゴメス