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色の名前で三題噺(C) 三題噺で10のお題様 始めてみます

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1) 青 執筆 時計





 空は秋晴れで高く澄んでいた。

 みずほは窓硝子越しにそれを見上げてため息をつく。
 恋人が書斎に篭って早三日。〆と大きく書かれたカレンダーの日付は連休明けにちょうど重なって、明日の日付になっている。
 世間では銀休暇と呼ばれる連休も、こうなってしまえばただただ恨めしかった。

 あたしの休みは今日までなのになんで締め切りは明日なのよ。

 喉にこみ上げてくる言葉はまだ恋人に告げた事はないが、いい加減ぶちまけてしまいたい衝動に駆られる。
 よれよれで、不精髭も剃らず目の下に濃いくまを作って、それでもぎらぎらと目を光らせて必死に執筆活動を続ける恋人を目の当たりにして、それを言えるほどみずほは子供ではないのだが。
 仕事だからと思いながらも、そのことにもまた微妙に口惜しい気にさせられるのは仕方ないことだった。

 泣いて喚けば済むならばいくらでもそうするのに。

 できないと解っていてつぶやく自分の顔は、窓ガラスの表面で何故かゆがんでいる。
 彼女の下では、主に三日以上も使われていないベッドが寂しく冷えている。
 サイドテーブルに乗った青い時計だけが、相も変わらず、三つの針で時を刻んでいた。
 今の時刻は午後三時七分十二秒。
 手を伸ばす。
 今時珍しいねじ式のアナログ時計は、みずほと付き合う前から恋人が愛用している品だ。
 きりきりとねじを巻いて針を進める。

 明日になれ、そう念じながら銀色の針が進むのを見つめる。

 明日になれ。この家の中だけでいいから。早く明日になれ。

 ―――恋人が仕事を終えて出て来る、明日になれ。

「……馬鹿みたい」

 ため息をついた彼女の手元には、丁度12時間だけ進んだ時計がかちこちと時を刻んでいた。
 綺麗な青い色の外装が、白い文字盤が、それに似合いの金色の細い針が、なんだかとても恨めしい。睨み付ける視線が落胆に歪んでため息が漏れる。

 だから彼女は気付くのが一拍遅れたのだ。

「ほんと、ばかみたいな事してるなあ」

 待たせてごめんな。そう耳元で囁く恋人の声に。背後から伸びてきた恋人の腕に。

「―――っ!」

 空はまだまだ秋晴れで高く澄んでいる。
 時計が指す時刻は午後三時十五分八秒。
 銀休暇はまだ残っている。
 明日になれ。そんな言葉はもう必要なくて。
 窓ガラスに映ったみずほの顔は歓喜に満ちていて、考える事なんてもうたったひとつしかない。

 さあ、残り時間、二人でどうやって堪能しようか。