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走れ! 第二部

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「さて、ジュン君。ここから青森まではどうやって行くの?」
「次は青森行きの特急列車に乗ります」
「よし!分かった!」
 そんな会話をしながらコンコースを歩き、在来線乗り場へと向かった。在来線乗り場には、スーパーはつかり号という特急列車が止まっていた。この旅に出る数年前に出た新型の特急車両だよ。白とオレンジ色のツートンカラーの電車だ。
「これ、浅虫も通るんですよ!その辺りでは海も見えます」
「それは楽しみだなあ!」
 涼子さんは嬉しそうに言い、大きな荷物を持って列車に乗り込んだ。自由席車両だったけれど、何とか座れてな。さっきはおれが窓側に座っていたから、今度は涼子さんが窓側に座った。
 楽しそうに発車の時を待っている涼子さんは、また大きなカバンをまさぐると、今度はせんべいをおれにくれた。もしかしたら、あの大きなカバンの中身は、全部お菓子なんじゃないかと思ったよ。二人してせんべいをかじりながら話しているうちに、発車時刻となった。
「いよいよ青森に行くのか……」
 そうつぶやいた涼子さんの言葉には、期待とか、何か決心のようなものが混じっていたように思えた。
 ゆっくりと少しずつ青森に向かって動き出したスーパーはつかり号。岩手山を見ながら沼宮内を過ぎた辺りで、かつては難所とされていた峠を越える。なので、しばらくは山の中を走った。その峠を越えてから少し走り、目時という駅を過ぎると、いよいよ青森県に入る。と言っても、その駅は山の中のローカル駅だから、いつ青森県に入ったかなんて分からないけどな。話をしているうちに八戸駅に着いて、ようやく青森県に入ったことが分かる。
「涼子さん、いつの間にか青森県に入ってましたよ!」
 八戸駅の看板を見ておれが言うと、涼子さんは慌たように窓の外を見ながらガイドブックを開く。そして、駅の看板とガイドブックを見比べて、
「あ、本当だ!やっと青森県に入った!」
 と、嬉しそうに言った。本当に嬉しそうな顔だったよ。あの顔は今でも忘れられないよな。八戸という町も海に近いけれど、八戸駅からは海を見ることはできない。この先の野辺地という駅を過ぎた辺りから海が見えると話すと、その嬉しそうな顔は、より輝きを増した。
 八戸の駅を出ても、まだしばらく列車は山の中を走る。八戸を出てから20分ぐらい走って野辺地を過ぎると、少しずつ車窓からの視界が開けて来て、遠くに美しい陸奥湾が見えた。
「おお、海だ!」
 涼子さんはまるで子どものように喜んでいた。あんなに嬉しそうにしている人、初めて見たよ。聞けば、日本に面する海は日本海しか見たことがないのだそうで、太平洋を見るのは初めてなのだとか。同じ日本に面する海でも、日本海と太平洋では周りを含めて景色も違うと言っていた。逆に日本海をまともに見たことがないおれには、あまりその違いも分からなかったけれど……
 そのまま列車は海の近くを走って、浅虫温泉駅を通過する。
「あ、この辺りが浅虫ですよ!」
「ここが!いい景色だなあ!」
 と、涼子さんは幸せそうな顔で言い、窓の外を眺めていた。
 それから列車はしばらく海沿いを走って線路が海から遠ざかると、もうすぐで列車は青森駅に着く。街の中を走り、貨物列車の線路やら、奥羽本線の線路やらが近づいて来た。さっきまで軽快に走っていた列車のスピードも次第に落ちて来て、そして、列車はようやく青森駅に着いた。大宮からだと、5時間近くはかかったな。
『ご乗車、ありがとうございます。青森、青森です』
 列車を降りると、そんな案内放送がおれ達を迎えてくれた。おれにとっては、懐かしい案内放送だったよ。
「ここが青森か……」
 駅の看板を見て、涼子さんが感心したかのように言った。
「さあ、案内して!」
 そう言って階段へ向かって歩き出した涼子さん。長々と続く乗換案内の放送を聞きながら、おれも後をついて歩く。案内しろと言ってるのに、案内する人の前を歩くなんて、何か変だろ?
 何ら変わっていない駅の中を通って駅前へ行く。おれにとっては久々、涼子さんにとっては初めての青森駅前。有名なねぶた祭りの時期は終わっていたので祭りの飾りはなかったけど、場所柄、その写真を使った看板が目立つ。
「ニュースで見たけど、ねぶた祭りって8月の初めらしいね」
「そうでしたね……」
 おれはそう言ったけれど、実はねぶた祭りの時期なんて、覚えちゃいなかった。今だから言えるけど、適当に答えてしまった。しかし、涼子さんはそうとは知らず、
「だったら、ねぶた祭りの時期に来ればよかったかな……」
 と言った。でも、その言葉をすぐに撤回して、
「あ、でもその時期に来たら混むか!それにジュン君にも会えなかったしね!」
 と、含み笑いで言ったので、おれはドキッとしてしまった。
「お、あの船は何?」
 適当に駅前を歩いていると、涼子さんは駅のすぐ近くに係留されている船を見つけ、おれに訊いた。
「あれは八甲田丸という船です。中は青函連絡船の資料館になっています」
「ああ、昔、青森と函館を結んでいた航路だね。あのガイドブックで読んだ!」
 涼子さんはそう言って、ガイドブックの入っているカバンを指差した。
「青森に来たら、毎回行くんです。行きましょうか!」
「うん!」
 ということで、青森に来て最初の観光は八甲田丸となった。ガキの頃から青森に来る度に見ている八甲田丸だけれど、おれもしばらく青森に来てなかったので、白と黄色の船体は、懐かしさを感じた。
 青函連絡船の最終便にも使われた八甲田丸は、青函連絡船の廃止後、中を博物館のように改装されてメモリアルシップとして現役時代に発着していた岸壁に係留されている。そこに現役の船としてではなく、メモリアルシップという役目で係留されるようになってから新しく設置された階段を上り、入口のカウンターで入館料を払う。おれがリュックサックから財布を出そうとすると、涼子さんがそれを止め、
「ジュン君の一人旅について来ちゃったんだから……」
 と、入館料は涼子さんが出してくれた。正直言うと、持って来たありったけの金もそんなに多くなかったから助かったよ。
 中に入ると、青函連絡船の歴史だとか、役割だとかに関する展示物や資料が所狭しと並んでいた。船の模型なんかもあったし、江戸時代だか明治時代の青函航路を再現したコーナーなんかもあったな。涼子さんはその一つ一つを、本当に興味深そうに見ていた。おれももうそれらは見慣れているはずだけれど、久々に見ると興味深いものだったよ。八甲田丸が現役だった頃には決して入ることのできなかった操舵室にも入ることができてな。ここはほとんど現役時代と変わっていないようだった。
「こういう所で船を操縦していたんだね」
 と、涼子さんが舵をとるハンドルの前に立ち、ハンドルに手をかけながら言った。
「おじいちゃんが客船の船長をやっていたらしくてね。一度、操舵室に入ってみたかったんだ!」
 おれのじいちゃんも生前、国鉄で機関士をやっていたという話はしただろう。ずっとそれがすごい話だと思っていたけれど、涼子さんのその話の方がすごく感じたよ。上には上がいるんだな。
作品名:走れ! 第二部 作家名:ゴメス