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私の読む「源氏物語」ー87-夢の浮橋 源氏物語終巻

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紛らわせないと言った所で、昔のその人でもない、変りはてた尼の姿を、意外に、薫に見つけられたならば、その時のきまり悪さなどを、浮舟はやっぱり思い悩んで一段と晴れ晴れしくない憂鬱な気持は、どう言っても言い尽す事の出来る方法もない。浮き舟は強情を押通すものの、然しながら、昔の事を思うから、泣いて、浮舟はうつ伏しなされた所が、全く人並みでない御様子であるなあ」と、妹尼達は、その様子を見て困ってしまった。
「どうお返事を」
 と妹尼達に責められて、浮舟は、
「気分が甚だ苦しいので、暫く休んで、間もなく返事を申しましょう。昔のことを思い出しますが、一向に記憶が泣く。夢物語も、不思議な事には、どう言う事の夢であったのであろうかと、ばかり思い、御文の意味は、どうもわかりませぬ。いくらか心が落ちついて後に、薫の御文なども、その文意が、自然了解できる事も、私にはあろうと思う。今日は、やっばり、この御文を持って、薫の所に帰って下されよ。もしも人違いででもあるならば、その場合に受取るのは、大層工合が悪いであろう」
 と薫の文を広げたまま妹尼に渡すと、「返すとは大変失礼なことで」
「返すなどと宜しくない態度は、御身を御世話申しあげる私共までも、やり場がない状態になります」
 と尼達が言い騒ぐのを浮舟は、いやらしく聞きにくく思い、袖に顔までも引入れて、横になってしまった。妹尼は小君に少しだけ説明して、
「貴方の姉の浮舟は、物怪がついているのであろうか、普通の人には見えなくて、ずっと悩み続けているので、姿も尼に御なりなされたからねえ。そんなわけで浮舟を捜す方が、他日捜しに来るならば、大層、面倒臭いに違いないことが、浮舟の一身上にあるであろうと、浮舟の尼姿を見て、私がかつて嘆いておりましたにつけても、果してその通り、このように、しみじみと御気の毒な薫との関係の事などが、浮舟の身の上にあるのに、今になつて、薫に浮舟を尼にしたと、大変なことをしたと私は思っております。平素も、浮舟は引続き御病気が続いているようであるから、今回のような薫の御文の事などの為に、さらに悩みが深くなったせいであろうかと、常よりも物を考えられない正気でない様に、見えます」
 と小君に言う。場所(山里)に相応して、風情のある御馳走などをして、小君を持てなしたけれども、小君の幼い気持には何となく落ちつかない気がするので、
「特に私を使いに出されたということに、返事としてどんな事を、薫君に申しあげようか、申し上げることが何もない。ほんの一言をいってくださいませ」
「そうである」
 妹尼は小君がこのように言ってますよと浮舟に伝えるが、浮舟は無言の儘でどうしようもなく、妹尼は、
「このような浮舟のことをはっきりと薫にお伝え下さい。京よりここは遠く隔たっていない道のりですから、小野は、山が深くても、小君には、またきっと、どうしても立ち寄ってください」 と小君に言うと、何と言う用事もないのに、長居して過ごすような事も変であるから、小君は、京に帰ってしまおうとする。心ひそかに懐しい浮舟の様子を、見る事が出来なくなつてしまった事を、小君は気にして、また残念で不満足のまま、京に帰ってしまった。 早く帰って来ればよいのにと、薫が待っていると、このように要領を得ない状態で、小君が帰って来たから、こんなことならば、興ざめで、折角使を出したのに返事がなくて、がっかりした結果となったから、これなら使を出さない方がよかったと、薫は思うことがあれやこれやと色々で、浮舟を誰かが、小野に隠して置いてあるのであろうかと、薫は自分は全く気にもしないで宇治に浮舟を、昔見捨てて置いた体験で考えなければ、と言う事である。(源氏物語完結)