私の読む「源氏物語」ー85-手習3-2
「拙僧は世の中に長く生きておりそうもないように佛からの教示がありました、その中に、今年・来年は、生きてはいないような風で、ありましたから、拙僧は、佛を深く念じようと、山深く籠もりました。然し、今夏愛のこの仰せで山を下りました」
等と返答をする。女一宮に取り憑いた物の怪の執念深さに、色々とその物の怪の名を名乗るが、恐ろしいことのついでに、
「大変珍しいことに拙僧は出会しました。この三月に年老いた母の頼みもあって、初瀬に願を掛けに参りましたその帰りの中宿で、宇治院というところで泊まりましたが。このように人が住まなくなって年も経て、大きな処は、狐や木魂などの悪さが、必ず住み着いていて重い病人の母尼のために、悪い悪戯をするのではないかと、心配しましたが、その通り事が起こりました」
と言ってから、そこで見付けた女であう浮舟のことを明石中宮に伝えた。
「それは本当に珍しいことでありますねえ」
と、近くに伺候している女房達が皆寝入っているのを、僧都の話しが恐ろしくて目を覚ましてしまった。薫大将の愛している宰相の君(小宰相)は、眠らないでこの話を聞いていた。しかし目をさまされた女房達は、僧都の話は全然聞いていなかった。僧都は怖々聞いていた明石中宮の様子を見て、思慮もない話を申しあげてしまったものであったと、その後のことを詳しく話した。
作品名:私の読む「源氏物語」ー85-手習3-2 作家名:陽高慈雨