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私の読む「源氏物語」ー84-手習3-1

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 妹尼は、
「返事しないのは失礼な事ですよ」
 と言って、妹尼より、
「前にも申しあげましたように、この人は世間並でなく、一般の人に似ない人です。
 移し植ゑて思ひ乱れぬ女郎花
     浮き世をそむく草の庵に
(女郎花を、憂き世を捨てている私共の草庵に連れて来て、私共に打解けて親しまないために色々に心配苦労をしています~)」
 と代わりに返事を書いた。中将は、今回は最初であるから、この人はきっと返事をしないのであろうと、許すことにして京に帰っていった。
 文などを小野にわざわざ贈るとすれば、それは相当に気恥ずかしく、そうかと言って、ちらりと、垣間見た姿が忘れることが出来ないで、この女の悩むのはどんなことかと、内容はわからないけれども、気の毒なので中将は八月の十日過ぎに、小鷹狩りという名目で小野の尼庵にやってきた。少将の尼を呼び出して、
「私は先日貴女の姿を垣間見てから、貴女のことが頭から離れず心が静まりません}
 と浮舟に通して貰った。答えは当然貰うことが出来なくて、代わって妹尼が、
「小町の「誰をかも待乳の山の女郎花秋と契れる人ぞあるらし」。この歌の通りと私は思っています」
 と言ってきた妹尼と会って話をする、
中将は、
「御気の毒な状態で暮らしておられると、先頃聞きました、人の身の上の話の残りを、私は聞きたい。この世が総て自分の思い通りに行かないという気持がして、出家して山へ籠もるのも希望をしているが、山籠もりなどとても許してもらえない親達が居るので、実現できないで月日を送っています。この世に、苦労も知らず、楽しそうな女性である貴婦人は、私が、このように、塞ぎ込んでいる陰気な性質のせいであろうか私には妻として、どうも似あわしくないのである。それで、物思いをなされるような女に私の心を聞いていただければと思っています」
 浮舟の気を引くようなことを並べて、妹尼に取り次ぎを頼む。妹尼は、
「苦労もし、塞ぎ込んでいるような性質の女を妻にとの御念願では、この人は、御話相手としては、貴方にお似合いと思いますが、、この人は、夫を持たない、尼にでもなろうと、とても普通には考えられないほど、この世に恨みがあるようであるから、私などのような、老齢の者でも、いよいよ出家をすると言って、世を捨ててしまう時は、
何となしに心細く、自然に思われたものなのに、この人のように、将来もある若い盛りの身では、尼を志しても結局はどうなるであろうかと、案じております」
 実の親になったつもりで妹尼は言う。浮舟の処に入っても、
「返事せぬは冷淡で人情味がない。中将の言葉があった以上は少しの言葉で良いから返事をしなさい。このような頼りない生活では、何でもないちょっとした事にも、物の情趣を理解するのが、何としても、この世の慣例でありますよ」
 宥めすかして言うけれども、浮舟は、「私は人に物を申しあげる口の利き方も存ぜず、何事もそれだけの価値が私にはありません」
 妹尼に愛想もなく言って臥してしまった。その事を聞いて中将は、
「返事は有ったのか無かったのかどちらですか、無い、心が痛む。秋を逢う時と約束したのは、私を、どうも御だましなされたのですね」
 小町の歌に「誰をかも待乳の山の女郎花秋と契れる人ぞあるらし」(誰を待っているのか待乳の山の女郎花よ。秋に逢おうと約束しておいた人があるらしいよ)、この「秋と契れる人ぞあるらし」の、人、を、中将は、自分の事と見立てて浮舟が嘘を言ったと、腹を立てたのである。