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私の読む「源氏物語」ー80-浮舟

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 と女房を介して告げた。連れ出そうとなされるのは、どうされることであろうかと、浮舟は勿論、右近も気が落ちつかず、あわててしまい、寝ぼけて起きた気持も、浮舟を連れ出そうと匂宮がなされる恐ろしさに震えが止まらなかった。まるで賎しい子供が雪遊びして、寒さにふるえているようにがたがたと震えていた。参りませんと浮舟に言我巣事無く、かき抱いて匂宮は出て行った。右近は、山荘の留守居に残って、女房の侍従が浮舟の供をした。
頼りなさそうな舟よと、浮舟が毎日のように川で見る小さな舟に浮舟は乗って川を樟さして川を渡る時は、いかに遠いような岸に向って漕ぎ離れたかのように心細く感じたが、つと匂宮にじっと寄り添って抱かれているのも、可憐な女だと匂宮は感じていた。有り明けの月が澄み切っていて水の面も曇りがない、船頭が、
「これが橘の小島です」
 と言って暫く岸に舟を止めたのを匂宮が見ると、島は大きな岩のようで、枝ぶりなどの、ゆがんだり面白い恰好をした常磐木の姿は、枝葉が繁っていた。
「あの繁っている常磐木を見て御覧。人情もなく、大層しっかりともしない物であるけれども、千年は変らずに繁っている程の、緑色の深味よ」
 
年経とも変はらんものか橘の
    小嶋の崎に契るこころは
(たとい年を経ても、契りは変るような物であるか、変る事はない。(人情もない、はかない木でも、千年も変らない色をしている)橘の小島が崎に、深く契る私の心は)

 浮舟ももの珍しい旅路に来たように思えて、

橘の小嶋は色も変はらじを
   この浮舟ぞ行くへ知られぬ
(貴方の心も(橘の小島の木の緑色も)、変るまいとは思うけれども、行くえ定めず水に浮いている舟のような私は、いかにも、身の行く末を知る事が出来ませぬ)

 有明の月の澄み渡る折であるせいと、浮舟の様子とで、匂宮は何もかも興味あるとばかり、思いである。(浮舟の歌の寂しげなのも考え及ばない)