私の読む「源氏物語」ー78-東屋3-2
「可哀想に浮舟は体一つを置き所なく、私は色々と悩むことである。思うようにはいかない世には、生き長らえて過ごしてはいけないものなのであるようだ。私だけは只一途に自分の氏素姓よりも劣って、人並扱いもせられず、専らそのような品々しくも人数にも扱われない点で、この世からこっそりと引籠もって暮して行く事が、きっと出来るに違いない。この御縁故(親戚)は、八宮が浮舟を娘として認めて下さらなかったから情なく、つらいと、かつては思っていたのであるけれども、浮舟のためを考えて、親しくし申すのに、もしも、不都合な事でも起ってしまったならば、人からの笑い者になってしまうであろう。この世は、いやであるなあ。この家は異様であっても、此処を人に知らせないで忍んでいなさい。どう言う事があろうとも、このままで、きっと世話を致しましょう」
と言っておいて北方は帰ろうとする。浮舟は心細くてか、泣き伏して、自分はたとえ世に生きているとしても、その事は、肩身の狭い思いをするような身であると、思い落胆して萎れた様子が憐れであった。その姿を見て北方は落胆はそれとして、浮舟の思い萎れた様子を見ると、浮舟以上に彼女が埋れ木になるのは、勿体なくて惜しいから、無事に成長して、北方の期待している通りに、浮舟を縁づけたいと思うのに、あのような不都合な匂宮事件に伴って浮舟が、考えの足らない軽薄者に思われたり噂せられたりするような事が、北方には心配なのであったからの佗住いなのである。北方の性格は、思慮分別がなく、分らず屋ではないが、とにかく怒りつぼく思うままに行動するところがあった。常陸介の家に浮舟が、ずっと隠れているのであるならば、たしかに、隠し置く事は出来るけれども、隠れているような事に対して浮舟が可愛そうに思えて北方がこのように別居と言う方法をとるが、生まれてからずっといっしょにばかりいた母と子であるため、双方で心細く思い、悲しがっているのである。
「此処はこのように未完成で危ないような処である。そのような危い無用心なつもりで、用心しなさい。部屋部屋に住んでいる女房達を呼び出しなさい。番人の事など、用向きを申し、指図をしてありますが、まったく安心はできない。でも家のほうでも私は用事を抱えているので帰りますよ」
と北方は言い置いて泣きながら帰っていった。
作品名:私の読む「源氏物語」ー78-東屋3-2 作家名:陽高慈雨