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私の読む「源氏物語」ー77-東屋3-1

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今まで思っていたことが、悔しく、今になって、浮舟の乳母が少将の事を、「心口惜しくいましける君なれば」(一四五頁)と言った通りなる程、格別勝れた点も、当然無いはずなのだと思って少将を一段と軽侮するように気持ちを切り替えてしまった。匂宮が参内するのを若君が這い出しtきて御簾の端から覘いているのを匂宮は見つけて、戻ってきて、
「中宮のご気分がよろしいように見えたならば、そのまま直ぐに内裏から帰ってくる。やっばり、今までのように悪いようであれば、今夜は宿直する。今は若と一夜離れることも苦しいことだ」
 と、暫く二歳になる子供をあやしてから出掛けていった。匂宮の姿は繰返し見ても見飽くことがないように、つやつやと輝いていて、匂宮が出かけてしまった後は、なんとなく物足りないようで寂しく、自然に、中君の北方はじっと物を思いつめるのである。
 常陸介の北方もと八宮の女房中将君が中君の前に出てきて、匂宮をしきりに褒めるのであるが、その言葉使いに田舎訛りが混じるので中君は可笑しいと笑うのであった。北方は、
「亡き母上がお亡くなりになった時は貴女は誕生なされた許りで、将来どうなるのであろうと、世話をする女房も故父宮も、大変心配なされましたのにねえ。然し、この上ない結構な運の良い方であったから、宇治の山の中でも良くお育ちになられました。哀しいことに大君が亡くなられたことは、なんとなく物足りない感じが致します」
 涙ながらに話すと中君も涙を流して、「世の中が、六君の為に、恨めしく、心寂しく頼りなく思われる場合でも、
こんなにして生き長らえておると少しは心配を忘れることが出来る場合もあるけれどもねえ。でも、頼りにしていた両親などに、早く御別れしたことはなまなか、「世間の常(ならわし)」と、諦めがつけられ、しかも(て)、母君は、その顔をも見知り申しあげなくなってしまったのであったから、その点は却って、それでまあ、心を慰めてもあるけれどもねえ。それもかえって、世間の常にあることと、諦めがつけられ、しかも、母君は、その顔をも知らないということで、その点は却って、諦めがついて心が慰められるのであるがねえ。それでも姉の大君のことは忘れることなく本当に悲しいことです。
薫が大君の事以外は万事に心が動かされないと言うことは、大君も心配して亡くなられました。浅くない薫の気持ちを見ると姉の死は大変悔しいことです」
「薫大将殿は、女二宮を降嫁させなされる程、世間に例がないまでに、帝が大切に寵愛なされいる故に、現在は、得意の絶頂でしょうに、大君が存命ならば薫との関係は、女二宮のことが障害となったのでは」
「いや。それは、どうであるやらわからない。けれども、もしも、女二宮によって、大君と薫との間が障害があるようになるならば姉も、六君によって、匂宮との間が塞ぎ隔てられている妹も、同様な運命であると世間の人からの笑われ者である気がしましょうけれども、むしろ大君が薫の北方になっては、却って、情なく惨めであろうがなあ。(その心憂さを)最後まで見届けないで亡くなってしまったので、大君の事が薫には心の底に消えないで有ることなので、故八宮生前の事だけでなく死後の追善供養の事までも、真剣に考えて気をつけて世話しておられるようである」薫には色々とあるが中君はそのようなことは忘れたように、気持ちよく語った。
「あの、亡くなってしまった大君の御代りに、似た人があったら、知らない国までもさがして見たい」(一〇〇頁(宿木)参照)と、この取るに足らないような浮舟のことをあの弁尼に言われたそうで、大君の御代りに奉ろうかと、私の思いつきを言い出すようなことではありませんが、それも、大君には妹に当る縁であればこそ、薫様が言われると、勿体ないけれども、薫様の深い大君を慕いなさる心が憐れに思います」

 と言いながら北方は浮舟の身に起こった数々を語って泣いていた。北方は詳細ではないけれども、浮舟と少将との縁談のことは、既に女房なども聞いているのであったと思うと、少将が浮舟を馬鹿にしたことなどをそれとなく語ってから、更に、
「私の命がある限りは、たとい手もとで世話するとしても、何の問題があろうか、毎日の話相手として、浮舟をそのまま世話して暮らす事も出来ます。けれども、私が、もしも先に死んでしまいますならば、その後の浮舟が落ちぶれさまよいするようになれば、その悲しさを思うと、可哀想なことであるが、尼にして深山にでも住ませて置いて、世捨て人となり、婚姻などと男女の間の事を断念させましょうかと、私はいろいろと思案にあまって考えています」