私の読む「源氏物語」ー76-宿木ー3-3
「浮舟の女房や供人など田舎じみた人達に、自分の、人目を忍び簡略にした粗末な軽々しい姿の微行も、見られたく思わないと、
供の者にも口外するなと言ってはあるが、果して知られずに済むであろうか、どうであろうか。私の下々の者どもには、私である事を隠して人に漏らさないではいまいなあ。これで、私は、今日はどうしようか、
浮舟が一人で来られたのは却って気楽なのである。二人の宿縁が深いので、ここに、こんなに来合わせたと、浮舟に伝言下されよ」
「出し抜けに、契り深くなどと言われること。何時の間に結ばれた御縁でありますか」 」と、笑って、
「それならば、そのように伝言致しましょう」
と奥に入っていった。薫は、
かほ鳥の声も聞きしにかよふやと
繁みを分けてけふぞたづぬる
(美しい鳥(浮舟)の顔は勿論、声までも、かつて昔聞いた大君に似通うているかとなつかしく思って、(かお鳥のいる)木草の繁みを踏み分けて来て、いかにも今日は探し求めている)かお鳥とは郭公のこと。
ほんの独り言のように詠うのを、浮舟の居間にはいって行って、弁尼は浮舟に語るのであった。(宿木終わり)
作品名:私の読む「源氏物語」ー76-宿木ー3-3 作家名:陽高慈雨