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私の読む「源氏物語」ー75-宿木ー3-2

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「さあ、どうであろうか。子供として彼女は父宮の認知もなかった事であるから、このようにまで貴方に漏らしてしまっては、何と私は口の軽いことであろうか、姉の人がたを作るために匠と言われている彫刻家をもとめることが、大変なことであるからこのように言いますのですよ」
 更に中君は言葉を続けて、

「都から大変遠いところで彼女は育ちました。彼女は「浮舟」と呼ばれています。そのような訳で母親が娘が田舎で埋まってしまうのを大変に歎いて、勝手に私の許に文を送ってきましたので私は無愛想に断る事ができませんので、その後文通していた所が、先程その浮舟が、私方に尋ねて来たのです。その時は、はっきりと見なかったせいでしょうか、彼女は私が思っていたほど田舎者らしくなく見えました。この娘をどのように処遇しようかと、その母親は心配していたようであったから、もしも、大君の像の代りとして、宇治の寺の本尊になるならば、それはこの上ない幸運で、そこまでは望まないであろう」
 この自分にとっては腹違いの妹に当たる浮舟の事を話すのは、中君が、何気ない風をして、薫のうるさい懸想心を、振り切る事が出来ればと、思っていると推察すると薫は辛いのであるが、露骨に、薫が恥ずかしい思いをするようなことはしないけれども、私の本心を中君は分かっていると思っていた。薫が胸をどきどきしている間に夜も大変更けて、御簾の中では中君が女房達の目を気にして薫の隙をついて奥に入ってしまったので、薫も当然のことであるとは思うが、中君の行動を恨めしく悔しく、恋心を静めることが出来ないで涙を流して女房達が見るのも恥ずかしく、心は乱れているのであるが、それはそれでまた、一途に軽率な無分別なような振舞は、やっばり中君には、大層浅ましくいやな事であり、自分のためにも軽率な行動で工合が悪く、面白くないから、こらえにこらえていつもよりも情け無い気持ちで中君宅の二条院を去った。
 帰宅して薫は、こんなに中君ばかりを思い悩んで煩悶していては、今後、自分はどうすればよいのであろうか、苦しさに堪えられなくなるに違いない。世間から後ろ指をさされずに、非難されない状態で、それで相当に中君を懸想する心が成就する方法を、どうすれば達成する事ができるのであろうかなんて、多くの恋愛をして成功したり失敗したり実践で鍛え上げた経験がない薫のことであるから、自身のためにも中君のためにも無理で、とうてい解決の道がない思いを考え続けてその夜は明かした。
大君に似ていると中君が言う浮舟も、何処まで本当かなあと思っていた。母親が大した身分でないから、心にかけて言い寄るならば、その場合には困難はないにしても、その浮舟が、自分の想像するような姿、性格でなければ、中君に勧められても煩わしく厄介な事であろうと、薫は中君に気持ちが行っているので、大君に似ていると言われているがその浮舟のことを考える気も起らない。 宇治の山荘を久しく見ていないと薫は、大君との縁は遠くなったと気持ちも心細く感じるので、九月二十日頃に宇治に出かけていった。先年に来たときよりも風が強く
、木が風にあおられて、凄まじく感じ、宇治川の水の音のみが留守居役で人影は見えない。その山荘の有様を見て先ず涙が溢れて限りなく悲しさを感じた。弁尼女房を呼ぶと弁尼は、襖の出入口に、今もまだ大君の服喪中なので、喪中用の青ずんだ黒色の几帳をさし出して隔てとして、そこに出てきた。弁尼は、
「こんな格好でお許しください。歳を取りまして以前にも増して、私は大層恐ろしく醜そうですので、いぜんのように直接お目にかかってお話は気恥ずかしくてこのようなことでお許しください」
 と言って几帳からまともには出て来ない。
薫は。
「貴女がどんなに物思い勝ちに、寂しく過ごしておられるかと、想像して私は、貴女の気持を知ってくれる人もないこの宇治で、昔の思出話でも語らいたいと言うので、このように参ったのである。わけなくまあ、積る年月であるなあ」
 と言って薫は目に一杯涙を浮べているので、弁尼は一段と新たに涙を流し、
「中君のことで去年、匂宮の、中君に無沙汰なのを何かと御心配なされるようであった頃、大君が体の不調を言われた頃の空の様子であると、今頃の空を見ていますと、悲しみが、何時でもですが、中でもこの頃は秋の風は身にしみるので、特に当時が恨めしく思われまして悲しいです。匂宮が、中君に疎々しくなられた当時大君が、御嘆きなされたようであるにつけても、なる程その通り、六君のせいできわ立って明白な、匂宮と中君の夫婦の中の不調和な御様子を それとなく承るにつけても、中君の悲嘆が、何につけ、色々に御気の毒でお可愛そうである」