私の読む「源氏物語」ー65-竹河
などと、上臈の女房に申すと、玉鬘も聞いていて少将が気の毒だと、思うのであった。
「夕霧様や雲井雁様の御考えである、大君を蔵人少将にという手前もあって、蔵人少将の、今更どうにもならない大君への執心が、強いて深いならばと考え、大君の身代りに中君を少将に譲ろうと思う。この御院参を少将が邪魔しようともしも考えるならば、それは以ての外のことである。この上ない高貴な身分でも、ただの臣下には、決して、婚姻を許す事は、あってはいけない。入内させるものとして、亡き鬚黒がかつて計画なされた事であるから。たとい、冷泉院に院参なされるような事であるだけでも、将来が晴れ晴れしくない事であるのに」
と言っているときに、蔵人少将のこの「花を見て云々」の文を取り次いで持って来て、女房達は、蔵人少将を気の毒がる。少将への返事は中将御許が書くということで、
今日ぞ知る空を眺むるけしきにて
花に心を移しけりとも
(私は、いかにも今日初めて知るのである。御身は、常に大空を眺める様子をしていて、本当は、浮いた心で、花に心を移しているのであったと)
これは「花を見て云々」の返歌には、程遠い。蔵人少将の内心は大君にあったのに、それには取合わす、只「花に心を」と、からかった態度の詠み口であるので、
「ああ、こんな返歌では御気の毒である」
「少将の執心な気持を冗談に許り中将御許は、敢えて扱うよ」
と女房達が言うのに中将御許は何も言わずに書き換えもしないで少将に送る。やはり先夜の二人は体を求め合ったのであろう。
作品名:私の読む「源氏物語」ー65-竹河 作家名:陽高慈雨