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私の読む「源氏物語」ー59-夕霧ー2

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夕霧大将は御息所が夕霧に返事を送った日の昼頃から六条院から雲井雁のいる三条邸に来ていた。今夜は小野の山荘に帰って、正式に女と結びあう慣例の三日間続けて女の許に行くという
二日目を実行しようとしたが、落葉宮とは、昨夜は無理に引き寄せて抱くことはしたけれども、体の関係はまだ無い今から、あることらしく人に思わせるだけで、自分のためにはよい結果をもたらすことでないと行きたい心をしいておさえ、柏木が亡くなってからの長い年月落葉宮を思う気持ちよりも、玉葉和歌集、恋一に人麿が詠う「心には千重に思へど人に言はぬ我が恋妻は見る由もなし」の心境で、今日は幾重にもつらい物思いを重ねてと、夕霧は嘆きかなしむのである。正妻である雲井雁は夕霧の密かな女遊びをそれとなく、うすうす聞いて、不快な気持ちを持っていたが、知らないようにして子供達と遊んで気持を紛らして昼の場所で横になっていた。
 その日の宵過ぎる頃に小野から文を持って使者が来た。夕霧が開くと、病のためにこのような読みにくい文面であるのかと、大殿油の燈火を近づけて
文面を見る。雲井雁は几帳などがあってタ霧との間を隔てていたが、すぐに夕霧当ての文と見て、密かに近づいて
背後より奪いとってしまった。夕霧は驚いて、
「奪いとるとはなんということをなさる、呆れたことだなあ。どうしたことで、酷いことをする。この文は六条の花散里様からの手紙ですよ。今朝、風邪のために苦しげにしておられたけれども、私が源氏の御前におりまして、帰る時花散里様の御殿には参らずにこちらに来てしまったので、そのことが気になって、今は気分は如何ですかと、見舞いの言葉だけを残してきたのです、その返事であるよ。女を口説くような文と見るか。それにしても、貴女は下人のするように賎しいことをなさいますね。長年連れ添っていて私を侮るようなことをなさるとは嘆かわしい。私がこのことで、貴女を下品女と思うかも知れない事を、貴女は全く恥ずかしいと思いなさらないかなあ」
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 とタ霧は、溜息をつき、しかもその文を無理に返すようには言わないので、雲井雁も中を読むわけにもいかず手に持っていた。
「年月と共に,私が夕霧様を侮る状態である、との仰せは、タ霧様の御心のひがみでありましょう」
 と、だけ言うと、夕霧が落ちついて、きちんとすましたようにしているので、雲井雁は遠慮して若やいだようにして夕霧に答えるので、夕霧は、
「侮るとか、ないとか、言いあいは、どうでもいいことだから構わないであろう、誰でもがする簡単な言い合いですよ。けれども、私以外にいないでしょうが、官位が相当な所まで昇っているのに、女を求めて外をうろうろと忍び歩きなどもせず、只一人の女を、こんなに守り続けて何かと恐れている、まるで鷹の雄のような状態なのは」
 と、鷹も隼も鷹狩には雌だけが用に立ち、雄は役に立たないのである。鷹が唐国東北からから日本に渡って来る場合も、雄は雌の後に随順し、時にほ蹴られたり、嘴でつつかれたりしつつ、それでも我慢してついて来る。この雌を「たい(弟鷹または婦鷹)」、雄を「せう(兄鷹)」と呼ぶ。詩経名物解、下巻に、「大(たい)」「小(しょう)」とも記しているのは、雄が小さく雌が大きいからである。ということを夕霧は頭に置いて雲井雁に言う。
「そんな頑固な律義者に連れ添って大事にされている事は、私自身だけではなく貴女にとっても名誉なことではありませんか。父上源氏の紫上のように外の夫人達が大勢いる中で、貴女が身分は勝れており、他の婦人達と格別に違う私の情愛の差がはっきりと見られたのは、それこそ世間からの思われ方も、奥ゆかしく、また私の気持も、やっぱり、古くなり難く常に新鮮で、何やかやと、興味ある事も、感慨深い事も絶えることがない。」
 夕霧は昔話の、韓非子、五蠧篇に「宋人、田ヲ耕ス者アリ、田ノ中ニ株(クイ)アリ、兎走リテ株ニ触レ、頭ヲ折リテ死セリ、因ツテソノ耒(スキ)ヲ釈テテ、株ヲ守リ、マタ、兎ヲ得ンコトヲ冀(こいねがう)へリ。兎ハ得べカラズシテ、身ハ宋国ノ笑トナレリ」とある。また禅録に「檀郎ト云フ者、美婦ヲ得テ、昼夜、婦ヲ守リテ、世事ヲ忘レタリ」と言うから国の物語を思い出して。
「昔の物語にあるように、老人が、美女一人を守ったとか、鋤を捨てて株を守り兎を捕ろうといったように、貴女だけを守り通してこんなにぼけてしまった、そんなことは私は、いかにも残念である。貴女もこんなぼけた夫を持って、どんな花やかさが、ありましょうか」
 と夕霧は雲井雁に素の文は何でもないような事を言て雲井雁を納得させ、欲しい様子もせずに、すかし騙して、この文を奪い取ろうようとしたが、雲井雁はにっこりと笑って、タ霧二十九歳。雲井雁三十一歳と言うことを頭に置いて
「若造りなさって、美しい姿を落葉宮に見せようと、私のような年寄りは、妻として連れ添っている事がつらいなあと、最近は大層浮気心がお出来になって、変った貴方のなりふりが、興ざめする程であるのも、私は貴方と一緒になってから今まで、見る事がなかったものですから、こういう浮気なことを早くから私に見せてくださっていたら、私も慣れていて心が騒ぐこともなかったでしょうに、急に態度を変えられて私は怨めしく思っていますわ」
 と不満を言う雲井雁をタ霧は可愛くもないが、憎くい女とも思わない。
「急に変ったと、貴女が思うほど変わってはいませんよ。嫌なことを言われることよ。貴方の心が曇っているのではないですか、私のことを中傷して貴女に何かを告げ口する人がいたのでしょうかね、その人は、前々から私のことをよく思っていない人でしょうね」
 夕霧は、初めて官に付いたときの六位という低さを馬鹿にした、雲井雁の乳母である女房大輔を念頭に思って言った。
「そうそう私のあの、緑、藍色の袖である六位の袍を軽蔑した後、今でも、私を軽蔑する事に口実を設けて、貴女を私から離れさせ、外の人にあわせるようにしようと、今も思っているのかな、色々と私と落葉宮のことを私にほのめかし、それは、関係もない落葉宮の御ためにも、気の毒と思うよ」
 と雲井雁には言いながら、当然あるはずの事であると、夕霧は思い、それ以上雲井雁と否定もしない。夕露の言う緑の袖の名残云々を、大輔の乳母は、申し訳ないことを言ったと、夕霧に言葉がない。