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私の読む「源氏物語」ー58-夕霧

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親しみを持っているよう素直に、送られて、やっぱり今までの通りであるならば、それがいかにもよいことであります。返事をしないことはいいことではなく馴れ親しんで、男が夢中であると得意になっているようであろう」
 と文を見ようと少将から受けとる。御息所に文を見られるのは困るのであるが、少将は仕方がないので文を渡す。
夕霧の文は、
「冷ややかな貴女のお心を知りましたことによって、かえって貴女をお慕いする心がおさえがたく、私の恋は益々膨らんでいきそうです。
せくからに浅さぞ見えむ山川の
   流れての名をつつみ果てずは
(山川を堰き止めても、水の漏れないようには、堰き止めることは出来ません。であるから私の気持ちを堰き止めようとすると貴女のお考えが、浅く見られるでしょう、山川の如く、世間に知れ渡っている私との浮名を、隠さなければ浮き名なんかは流れる水の中に包み込まれてしまいますよ)」

 ほかに書かれていることは多かったが、病の苦しみでその殆どは読めなかった。
 夕霧の文もはっきりした、おどすとか押しつけがましく思い込んでいる女好きの内容でもなく、読むと呆れて腹の立つ内容の自分勝手なもので、訪ねてこなければならない今宵に訪ねて来ない冷淡な夕霧を、御息所は、礼儀を知らない怪しからぬ者と、思うのであった。
 亡き柏木が落葉宮に冷淡なときに、
つらく情ないと、考えたけれども、柏木の、表向きの落葉宮への接し方は、彼女を大切にし、外に落葉宮以外の女がないのであったから、本妻なので、行末の事も心配せず、こっちに、それだけの力がある気がして、何とか柏木の冷淡さを慰めていたが、それでも、実際は不満足であった。そのことがあるのでこの度のタ霧の仕打ちは、全く慣例を破る甚だしい無法な事である。この噂を、致仕太政大臣はなんと考えるであろう、また、どのように夕霧に注意されるであろう、どうであろうか。タ霧は、雲井雁に気をつかって、表面はこのような冷淡な態度をとっているのであろうか、色々と深刻に御息所は考える。そうして心は乱れ涙を流し続ける目を拭っては、鳥が歩いた跡のようなまずい書体で夕霧への返書を御息所が書くのであった。
「私の病が思わしくないのを落葉宮が、様子を見にに来ているときで、返事を書くようにと言うのですが、落葉宮は何となく気分が優れないようでありまして返事を書き認めることが出来ないようです。その様子を心配いたしまして、私が代書いたします、

女郎花萎るる野辺をいづことて
    一夜ばかりの宿を借りけむ
(女郎花(落葉宮)が、思いしおれて(気が挫け悩んで)いる野べ(所)であるものを、どこと思って、一夜限りの宿を借りたのであったであろうか。又とは来ないくせに)」

 と、ただ、書きかけただけで、両端を捻って捻り文にして御簾の外に出して臥せってしまい御息所は大変苦しがる。
「御息所が、気分のよいように見られたのは御物怪が」
「御息所を油断させたのであったのか」
 御息所の容体が悪くなったのを見て女房達は口々に言っては騒ぐ。いつもの霊験あらたかな祈祷の律師達全てが集まってきて陀羅尼など読み、大層大声で加持し叫び上げる。落葉宮に物の怪が取りつくと面倒なことになるので、
「ここでは、物怪が恐しいから、やっはり」
「お部屋にお帰り下さいませ」
 と女房達が宮に言うのであるが、落葉宮は自分のことから母親の御息所の容体がが悪くなられたのだ思うと、御息所の側を離れられなかった。