私の読む「源氏物語」ー51-若菜 下ー2
三宮は見たところ品があって可愛らしく世慣れた様子に見えるのであるが、柏木は自分の行動が恥ずかしく、自分はこの思い詰めた心の一端を三宮に告げて、後に悔いを残す色事は止めておこうと考えていたのであるが、逢って、このように腕の中に抱え込んでみると、気にするほどの威厳もなくかえって可愛らしい感じの女であるので、なよなよと見られる彼女が上品で、とても可愛らしく、同じ姉妹でも妻の二宮とはどうも似ていないなあと感じるのである。柏木はゆっくりと女の袂から手を差し入れ乳房を触る、小さな小山が手のひらに香ばしい良い香りとともに伝わってくる、柏木は自分の行動を止めることが出来なくなっていた。無言で愛撫する時間が続き姫も声を上げることがなかった。柏木はこのまま姫を連れてどこかに隠れて住み、自分は官位も捨ててしまってもよい、そうして二人でこの世間から全く隠れてしまってもよい、とまで頭の中は狂ってしまっていた。
柏木は三宮の体を愛撫し続けた、ふるえていた彼女の体も幾分納まってきた。
三宮は源氏とは違った若い柏木の愛撫に、始めは嫌悪を感じ体が怒りに震えていたが、いつまでも続く柏木の愛撫と若い男の香りが女の性をゆらし始めた。
若い男がぐいぐいと迫ってくるのも初めての経験であり源氏と違った愛撫の方法も新鮮な感じがしてきた、体が濡れてきた背後から抱きすくめている柏木の興奮した体を感じた、三宮も幼いと人は見ているがどうして源氏との七年の結婚生活で充分女として鍛えられ成長してきているから、男というものは分かっている、だから彼女も体に火がつき始めたのである。小さな吐息をついた。
柏木も女を知り尽くしている、小さな女の吐息を見逃さず姫は落ち着いたなと、帳台の畳に寝かせ自分も袴を解いた。横になり姫を抱きかかえて肌を密着させた、殆ど真黒の闇の中で手の感触とお互いの息づかいだけが感情の高ぶりを知る唯一の手だてである、柏木はここまで来ては臆することなく彼女の体全体を愛撫し女の興奮の度合いを探った。三宮の興奮の濡れを彼は指先で感じ何の障害もなく二人は一つになった。三宮から歓喜の蜜がほとばしっていた、三宮は源氏が紫の看病で二条院へ行っている空閨を埋めるかのように頂点に何回も登り詰めて柏木を離そうとしない、柏木も長年の思いを叶えた喜びに三宮の思いにしっかりと答えていた、男の興奮は絶頂に達して次の興奮まで少しの時間がかかる、だから長い長い二人の交わりが続いた。
離れて柏木は少し眠ったのであろうか夢を見た、かつて飼い馴らした唐猫が可愛い声で鳴きながら柏木の側に寄ってきたのを三宮にあげようと、私が連れてきた猫です、どうして三宮に差し上げるのか、というところで夢が覚め、自分の現在が分かって驚き、何という夢を見たのであろう恐ろしやと、思うのである。
三宮も興奮から醒め現実に戻ると柏木との交わりを今は悪縁と驚きあきれ、先ほどの二人の関係は現実と考える事ができず夢かとぱかり悲しみがこみ上げてきて胸が一杯になり途方にくれて沈んでいるのに、
「これも二人の浅くない縁であると考えてください、私もこれが現実とはとても思えないでいます」
かつて六条院の蹴鞠の際偶然に三宮の部屋の御簾の端を、猫の綱が引き上げ彼女の姿を垣間見た夕の事を話した。
「そのようなことがありましたの」
と気の緩んだ一瞬を残念に思うのであるこの姫は薄幸な御方なのであった。三宮は、こうなっては源氏様とどのようにして向かい合うことが出来るであろうか、と心細く悲しくなって子供のように泣きだした、柏木はその姿を見て、どうも申し訳ないと、自分も泣いていた、三宮の涙を袖で拭いてやるとその袖は涙で一面濡れた。柏木はそろそろ夜が明けていくが、帰って行こうとしても、このような三宮を放って行く事も出来ず、かえって逢ったことによって悔やみごとが大きくなり嘆きは増すのであった。
「私の貴女に取った行動は申し訳ないことで、私を憎んでおられるでしょう。またお会いしてお話が出来たら有り難いのですが、それも無理なことでしょうが、ただ一言お声を聞かせてください」
色々と柏木は云うのであるが、三宮はますます自分を嫌悪していく、彼女は桂木の声を聞くのも煩わしくてつらく一言も言葉が出ないので、
「黙っておられればこちらも気味が悪くなってきました。このような薄情なことはありますまい」
答えがないので三宮をしょうがない女だと思い、
「さて私はここにいても仕方がないことです。今回のことで私は死を覚悟しています、貴女の声が聞けないので、それでは死ぬことも出来ないとこの場にいるのです。声も聞かずに今夜この身が果てるということは大変悲しいことです。少しでも私を許してくださるならば、それに代えてでも命を捨てることにいたします」
と言うなり三宮を抱き上げて帳台の外に出るので、彼女は自分をどうしようとしているのだろうと驚きあわてる。柏木は衝立を広げて見えないようにして戸を押し開けると渡殿の南の戸がまだ昨夜はいった時のままにあいてるのを見つけ、渡殿の一室へ彼女をおろした。外はまだ完全には夜が明けていない、それでも柏木は姫の顔を見たいので格子を引き上げて、横たわる姫に、
「あなたが冷淡な態度を取られるので、私の常識はすっかり消えてしまいました。私を少し落ち着かせようと思いなら、可哀想とでもおっしゃってくだされば心が落ち着きますでしょうに」
と脅すように云う。姫は無理なことを云う人だと思いそれでも一言物を言わなければと思うのであるが恐怖がまだ納まらず口がきけない。夜が次第に明けて周囲が明るくなっていく、三宮は歳よりも少女らしく見えた柏木は明るくなるのに気持ちが焦ってきて、
「今し方まどろんだ際に見た夢物語をしたいのであるが、このように私を憎んでおられてはとてもお話しできません。それとも貴女は今何か言いたいことがおありなのか」
とのどかに日が差すが柏木にとっては四月であるのに秋のような庭の景色に見えた。
作品名:私の読む「源氏物語」ー51-若菜 下ー2 作家名:陽高慈雨