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私の読む「源氏物語」ー43-真木柱ー2

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 年明けてこの年は、隔年正月十五日に行われる男踏歌がある年であった。殿上人や地下人などの、四位以下の人達が、催馬楽を歌って高位人達の邸を巡回する、その頃に玉鬘は華やかな入内の儀式のもとに参内をした。玉鬘の参内には源氏や父の内大臣の勢いは勿論のこと、かの鬚黒大将も一つになり、タ霧中将も、玉鬘に親切に内裏においての所作法を教え込まれた。玉鬘の兄である柏木も妹の参内の時にと、彼女の機嫌を取って近よって来て、玉鬘を大切に世話をするのは誠に立派である。玉鬘は参内すると仁寿殿の北にある承香殿の東側に休憩の部屋である局を与えられた。  
 承香殿の西面には式部卿宮の娘で冷泉帝の女御が部屋を与えられている。承香殿には鬚黒の妹の朱雀院の女御が住んでいるので、玉鬘は、ここに局したのであろう。中廊下だけの僅かな隔てであるが、玉鬘と式部宮女御との気持は、鬚黒が帝の女御の姉にもなる北方を離縁した一件などから親しくなるわけがない。女御や更衣どちらからともなくお互いに競い合う内裏の中は奥ゆかしく常識では考えられないような世界であった。この頃は、格別に身分の低い更衣たちはあまり多くは勤めていなかった。秋好中宮、内大臣の娘の弘徽殿女御、式部卿の宮の娘女御達が主に帝の側に控えていた。また、中納言、宰相の娘二人が更衣として仕えていた。踏歌を見ようと女御・更衣達の実家の女房が見物に参上し、常とは違って賑やかで陽気である、里から来た女達はそれぞれ栄えある場所に副うように着飾って自分の持つ美しさの有るだけを出し、袖口の重なりは、幾枚ともなく沢山立派に用意して御簾の下から覗かせる打出(うちいで)という儀式や宴の折に、御簾の下から衣の裾や袖口をはみ出させてその襲(かさね)の美しさを見せる、ことを競い合っていた。
 春宮の母承香殿女御(先の帝朱雀院の女御)も集まった者達に陽気に振舞いをして、春宮はまだ若くあるけれども将来は帝となるから、踏歌の人達へのねぎらいの振る舞いはすべてが花やかで陽気であった。春宮は今年十二歳である将来のことも考えて現代風に育ってられていた。踏歌は冷泉帝の御前で踊り歌い、続いて秋好中宮、先の帝の朱雀院と回って夜が大層更けてしまったので源氏の六条院には「今回は深更なので煩わしい」というので踏歌が押しかけるのをやめにした。朱雀院から帰ってきて、春宮や春宮の母承香殿女御などの局を巡り歩いている間に、夜が明けてしまった。ほのぼのとした夜明けに、踏歌の者達は酒に酔ってしまい、踏歌の人達は最後の歌である「竹河」を歌い始めた、

 竹河の 橋の詰とて その橋の 詰なる方の園な れや あれ園なれや 花の園とて その花の 花 の匂いに誘われて 連れて行きたや その花園に 匂い豊かな 乙女子を やれ行かんずや それ行 かんずや 我に引かれて ええ その橋の本

 内大臣の子供達は皆殿上人で五人ほど踏歌の中に混じっているがなかなかの美声である。姿形も美しく踏歌の一団に続いているのは見事なものである。まだ童である八郎は、内大臣の妾腹の内大臣の末子で柏木と同腹であるが、大臣は大変な可愛がりようであるが、鬚黒大将の子供の太郎と並んでいる姿を、見物人は勿論、尚侍の君である玉鬘も、八郎は異母弟なので目につくのであった。高貴の出で内裏勤めに慣れた女御や更衣達より玉鬘の局の女房達の袖の色合い、あたり一帯の様子は今様で立派であり、衣裳も変った点もないが、彼女の心の中は源氏や内大臣や鬚黒などの関係もあって、内裏の方が玉鬘は格段に明るく立派で居心地がよいのである。里で鬚黒の側に居るのはお断りだと思う。女房達も、
「このように玉鬘が晴れやかにのびのびと満足して、暫くこの御局で御過しなさるとよいがなあ」
 とお互いに感じていた。 
 どこの局でも皆同じように踏歌の人達に祝儀として「かずけ物」を出す、踏歌にはま綿をかずけるのが例であるが、綿の様子も光沢も格別で体裁よく気をきかせて作りられてあり、玉鬘の局は簡単に酒と湯漬だけ饗応する「水駅」であるので局はにぎわしく女房達はうきうきとして男達の手前気取った様子で踏歌を見物しており、接待には、水駅として限度のある饗応ではあるが差し出すものは立派にするように鬚黒大将が命じていた。鬚黒は、摂関・大臣・大納言などの宿直したり休息する曹司であ内裏の宿直所即ち直廬(ちょくろ)に玉鬘の事を心配して来て、玉鬘に水駅での所作を一つ一つ伝えて踏歌の日は一日中過したのである。彼は玉鬘に、
「今宵は私の屋敷に貴女をお連れいたしましょう。内裏に参内されたついでに我が家に住みなさる、ということで、貴女の気持ちが変わるような宮仕えをされるのは私は好みません」
 と何回も文を出すのであるが、玉鬘は相手にしないで返事することがなかった。玉鬘の女房の一人が鬚黒に文で伝えた、
「源氏様が玉鬘様に、気分が落ち着かない気持であるので、毎日の内裏参内ではないから、冷泉帝の御満足なさるまで内裏に宿直して、帝から御許可があってから御退出しなさい。と仰いましたので、今夜内裏から退出なさいますと、あっさりし過ぎてはありませんか」
 文を見た鬚黒は、
「思い通りに行かない二人の仲だ、つらいこと」
 と思い、
「参内前にあれ程玉鬘に『参内しても直ぐに退出するように』と申したのに、さてさて、思うままにならぬ世であるよ」
 と嘆息して、それでも自身は右近衛の宿直所に居座っていた。

 源氏の弟の蛍兵部卿の宮が、冷泉帝の管弦の会にたまたま鑑賞に来たのであるが、なんとなく見た目に落着かず、音楽もうわの空で聞いているようであった。彼は玉鬘の局、承香殿の辺がとても気になっていていたのであったが、とうとう我慢し切れなくて、使いを出して文を届けさした。丁度そのときに鬚黒大将は自分の勤め場所である陽明門の内側にある右近衛府の詰所に勤務していた。蛍宮の文を使いの者から預かった女房が間違って玉鬘に鬚黒からの文と言って御簾の下から差し入れたので、玉鬘は嫌々ながら文を開いた、とそれは懐かしい蛍宮からの文であった、
 深山木に羽うち交はしゐる鳥の
    またなくねたき春にもあるかな
(深い山中の木に仲睦しくしている鳥(鬚黒・玉鬘)が、私には又となく妬ましい春であるなあ)
 御二人の話し声にも、私は自然に耳が動いてしまいます」

 と書いてあるのを見て玉鬘は蛍宮が気の毒で又懐かしく自然に顔が赤くなり、返事を書くことも出来ずに、蛍宮を懐かしく思い浮かべていたが、そのとき冷泉帝が玉鬘のもとに訪れてきた。月の明かりに浮かぶ冷泉帝の姿は言葉がないほど清らかであるが、どう見ても源氏の君に見間違うほど似ていらっしゃると玉鬘は思った。玉鬘は「美しい男の方は源氏の君以外はいないものと思っていたが、源氏様以外にもおられたのだ」と冷泉帝をじっと見つめていた。
 源氏の玉鬘への愛情は、決して浅いとは言えないが、それは単なる愛情ではなく彼女の体を求める懸想心があったから、世間には父と表明している手前自分の心が世間に知られまいかといういやな心配が玉鬘が鬚黒の女となるまえにはあったが、冷泉帝はどうして源氏のような玉鬘の体を求めるような懸想をするようなことを考えるようなことはないと見えた。