私の読む「源氏物語」ー38-かがりび
と源氏が促すので、弟の弁少将が蝙蝠の扇子を手に打ちながら静かに忍ぶような小さな声で謡う、その声の澄んで美しい事は、折しも秋であるから、鈴虫の鳴く音と聞き違えるほどであった。源氏は二回ほど繰り返し弁少将に謡わせ、自分の弾く和琴を柏木に譲る。柏木の弾く和琴は父の内大臣の弾くのに劣るものではない。聞く者に華やかにして楽しみをもたらすものがあった。
「御簾の内には音楽をよく聞き分ける方がおられますよ。だから今宵は酒は心して飲むこと。人年取った自分なんかは、酒によって涙を流しふと隠し事を口走るやもしれん」
御簾の中で源氏の言葉を聞いていた玉鬘は、
「その通りのこと、しかし柏木の琴は見事なものである」
と熱心に聞いていた。
兄妹の縁というものはよい加減であるはずはないと思うせいであろうか、玉鬘は柏木や弁達を秘かに目にも耳にもしっかりと焼き付けておこうと注意しているのであるが、そのような兄妹であるなどとは全然知らない二人は玉鬘に想いを寄せているのであるが、特に兄の柏木は心から玉鬘を恋しく思うのであった。この夜のように玉鬘近くで演奏するなどとは柏木の心は乱れに乱れて思いを抑えて人前では平気を装っているが、このまま琴を弾き続けることがとても出来ない状態であった。(かがりび)終わり)
作品名:私の読む「源氏物語」ー38-かがりび 作家名:陽高慈雨