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私の読む「源氏物語」ー34-初音

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 白々とした明け方の月の光が寒そうで物凄い、雪はだんだんと降り積もってゆく。松風が木の梢から吹き下ろして、何となしに荒涼として興味もさめるに違いない頃に、何の飾りもない青色で糊気が落ちて、柔い様になって居る袍に、白地の下襲の白い色のエ合という見栄えのしない装束に、
祝いに挿すのは、何の色艶もない綿であるが、場所柄のせいか風流で、見物人は満足に感じ、寿命も延びるような気がするのであった。
 源氏の長男の夕霧や、亡き源氏の正妻の葵の兄である内大臣の長男柏木は、踏歌の一団に混じって踊っているが、踊りとその容姿が一段と勝れて立派に目立っている。
 夜明けが進むと、雪が少し降ってきて、何となく寒く感じられるころに、「竹川の 橋のつめなるや 橋のつめなるや 花園に はれ 花園に 我をば放てや 我をば放てや めざし(少女)たぐへ」、(竹河の橋のたもとにある 橋のたもとにある花園に はれ 花園に解き放っておくれ 私を解き放っておくれ 少女と一緒に)と催馬楽の「竹河」を謡って舞人が寄り添い、また離れてと舞う姿、思いをそそる声々が、絵に描き止められないのが残念である程に華やかなものであった。。
 源氏の夫人達は、御簾の下からそれぞれ衣装の袖口を外に出してお互いが負けずと纏っている衣装のきらびやかさを競っている、各自が着ている物の色合いは「朝ほの明るい空の景色の時に、春の錦が、漏れ出てしまって居るのであった、霞の中であるのか│霞の中に、春の錦が出てしまって居るのであったのかなど、とみわたせた。不思議に満足のゆく催し物であった。
 そうであるけれども、冠に巾子を高く作って白い絹を張る高巾子を付けた、世間離れのした様子の六位の舞人。その人は又、綿の面を付けているのでよけいに見なれない姿になっているので「世離れたるさま」とみんなは見ていた。源氏の御前に、人々が述べる祝いの言葉の騒々しいこと、さらに文句が馬鹿馬鹿しいなんていうことは誰一人頓着せず、踏歌の人々は大袈裟に勿体ぶって、することが大袈裟すぎるので騒々しくて、それで、面白く聞こえるはずの夜歌が、聞くことができない。踏歌の終りには、
「よろづとせ(万年)有られ」を繰り返して、足早く走って退く。綿を一同源氏から頂戴した。

 夜がすっかり明けてしまったので、夫人達はそれぞれの屋敷に帰って行った。源氏は、徹夜の大騒ぎで、体を休めようと少し横になり日が高くなったころになって起き出してきた。そうして男踏歌一団の左頭であった夕霧の歌い方を思い出し、
「夕霧の声は、内大臣の二郎弁少将に比べて少しも劣っていないようだったな。昨日の様子を見ると昨今は不思議に芸能の勝れた者たちがよく育つようである。昔の人は、本格的な学問では優れた人も多かった。だが風雅な芸事には、最近の人には適わないようである。夕霧を、生真面目な官僚に育てようと思って、自分のような芸事に偏った偏屈物にはするまいと思っていたが、やはり心の中は多少の柔らかさを持っていなければならない。落ち着いて、真面目な性格だけでは、人から煙たがられるであろう」
 など話して、夕霧が可愛くてしょうがないのであった。八句の唐詩で句毎の最後に「萬春楽」という言葉を付けて謡ぅので「万春楽」というのであるが、源氏はその歌を口ずさみ、
「夫人たちが六条院に集まったのであるから、ひとつ管弦の遊びを催したいものだ。私たちだけの踏歌の後宴をしよう」
 と言って、美しい袋に入れて大事にしている弦楽器を、すべてを倉から出してこさせ、埃を払って、緩んでいる絃を、調律させたりさせた。このことを聞いた各夫人は、自分の腕を試されると、たいそう気をつかい、緊張しているのであった。(初音終わり)