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私の読む「源氏物語」ー31-乙 女後半

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 大柄な童女が、濃い紫の袙に、紫苑の織物を重ねて、赤朽葉の羅の汗衫着て、とてももの馴れた感じで、廊や、渡殿の反橋を渡って紫の御殿に参上する。このような場合は、格式高い礼儀作法の優れた女房が使いに立つのであるが、中宮はこの童女の容姿がとても可愛いのでどうしてこの童を使いにしたい気持ちが捨てがたく、選びになったのであった。この童女は高貴なところに使えていたので貴人の前の仕草に馴れていた。紫の前での立居振舞は他家の童女とは違って、とても好感が持てて可愛らしい、中宮の手紙には、

 心から春まつ園はわが宿の
      紅葉を風のつてにだに見よ 
(お好みで春をお待ちのお庭では、せめてわたしの方の紅葉を風のたよりにでも御覧あそばせ)

 若い女房たちが、お使いの童女を歓待する。
 紫からの返事には、中宮からの箱の蓋に苔を敷き、巌などの感じを出して、五葉の松の枝に、

 風に散る紅葉は軽し春の色を
     岩根の松にかけてこそ見め 
(風に散ってしまう紅葉は心軽いものです、春の変わらない色をこの岩にどっしりと根をはった松の常磐の緑を御覧になってほしいものです)

 この松を据えた巌は、よく見ると、素晴らしい細工物であった。このようにとっさに思いつく紫の才知を、中宮は感心して見ていた。中宮に伺候する女房たちもさすが源氏の妻であると褒め合っていた。源氏は中宮の歌を眺めて、
「この紅葉のお手紙は、何とも憎らしいですね。貴女は春の花盛りに、このお返事は差し上げなさい。この季節に紅葉をけなしなさると秋の女神の龍田姫がお怒りになることもあるので、ここは一歩退いて、春になって花を楯にとって、強いことも言ったらよいでしょう」
 と紫に注意をする源氏は、とても若々しくどこまでも素晴らしい魅力にあふれた姿である。紫、花散る里、中宮の三女は、いよいよ理想的な屋敷に住み、手紙のやりとりをするのであった。
 大堰に住む明石の方は、
「このように御方々のお引っ越しが終わってから、もの数にも入らない私は、いつか分からないようにこっそりと移ろう」
 とお考えて、神無月になって引っ越した。源氏は部屋の飾りや、引っ越しの次第は他の三人と劣らないようにして、引っ越しをさせた。明石の生んだ自分の姫の将来を考えると、万事についての作法も、他の三人とひどく差をつけず、たいそう大事に扱っていた。
(乙女終わり)