私の読む「源氏物語」ー30-乙 女
宮中に仕えております弘徽殿が、帝のご寵愛が中宮に移ったことが恨めしい様子で、最近宮中を離れて私の元に帰っておりますが、とても退屈そうで気分も沈んでおりますので、雲居雁と一緒に遊びなどをして慰めようと、ほんの一時引き取るのでございます」
と言って、
「これまでお育てくださり、一人前にしてくださったのを、けっして忘れてはいません感謝いたしております」
と大宮に深く頭を下げて言うと、内大臣はこのように思い立ったら、反対して引き止めようと大宮がしても、考え直すような性質ではないことを母はよく心得ているので、孫娘を離すのは大変に残念と思って、
「人の心とは嫌なものです。あれほど私が慈しみ育て上げた二人の孫達も、わたしに隠れて愛し合うなんて嫌なことですよ。また一方で貴方は、内大臣となり思慮分別がありになりながら、わたしの育て方が悪いように言って、このように孫娘を連れて行ってしまうとは。貴方のお側でも、ここよりも安心なことはあるまいに」
と、泣きながら息子の大臣に言うのであった。
弘徽殿女御と冷泉帝の関係は年齢が近いので友人としてだけであって遊んだり絵画を描いたりする仲で体の関係はなかった。
しかし、后となった斎宮女御秋好中宮は彼女が七歳も年上とあって女としての責任感から子供を妊らなければならない、男と女の関係は深いものになっていたのは間違いない。男は女と一旦体を結び男から女へと奔流となってほとばしる愛欲の発射の歓喜を味わったらそれを制御することは至難である。
帝は弘徽殿を失うことも辛いことであったが体の欲が勝り弘徽殿の里帰りを承知した。
作品名:私の読む「源氏物語」ー30-乙 女 作家名:陽高慈雨