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私の読む「源氏物語」ー28-朝顔

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 前斎院のご性質は、また格別で、何かこう弱々しいところがありそうに見えます。彼女が心寂しいであろう時に、用事がなくても文なり、歌なりを便りをしあって、何とか慰めようとしているのです。気がかりなお方は、ただこのお一方だけが、世にお残りでしょうか」
 と、源氏は紫に語りかける。紫は、
前の斎宮の宮と源氏は契り会おうとしていることをうすうす気づいている嫉妬心から、さらに過去の源氏の女にと紫は話を進めていく。
「朧月夜の尚侍は、とても聡明でしかも奥ゆかしいところは、どなたよりも優れていらっしゃるでしょう。そのようなお方がどうして貴方と契りを結ぶような軽率なことを、男の方との浮気などは、無縁なお方であると思っていましたのに、どのような手を使われたのですか、私は不思議でたまりません」
 源氏は次はこれかと紫の嫉妬の気持ちが燃え広がっているのを感じながら、、
「そうですね尚侍は、優美で器量のよい女性の例としては、秀でた方ですね。そう思うと、私の女として囲うことができなかったのは悔やまれることが多いのですね。まして、浮気っぽい女好きが、歳をとるにつれて、後悔することがたくさんあります。誰よりもはるかにおとなしい、と思っていましたわたしでさえ。悔しいことが多くありますからね」
 などと、言い、朧月夜の尚侍と花の宴の夜に初めて抱き合い、その後朱雀院の女となったのっであるが、院の目を盗んでの関係が続き、彼女の父の右大臣に見つけられて、その結果須磨に流され、彼女にまつわる昔を思い出して涙ぐんだ。そして話を続けた、
「あの、貴方が問題にもしていない田舎者とさげすんでいる山里の女明石は、あの身分の女にしてはやや物の道理をわきまえているようですが、私には他の人と同列に扱えない人です、だから彼女が気位高く構えていることを、見て見ない振りをしています。彼女よりも身分の低い女と交わったことはありません。お話にもならない身分の人はまだ知りません。女の人で、身分も性格も、容貌もすぐれた人というのはめったにいないものですね。
 東の院に寂しく暮らしている花散る里から来た人は、気立ては、昔に変わらず気持ちの優しい可憐な女です。あのように普通の女はできないものです。その気だての良さに私は惚れ込んで彼女を世話するようなり、以来、これまで契り会うのを遠慮深く過ごしてきましたよ。しかし今はもう、互いに許し合ってとても別れられそうなく、私は心から彼女をいとしいと思っております」
 などと、昔の話や今の話などをして夜が更けてゆく。二人の話すのを見ている女房たちは、たぶん今宵は紫と添い寝されるだろうと、思っていた。

 二人が話をしている中に月がいよいよ澄んで、とても静かな月の夜になった。紫はそっと呟くように、

 氷閉ぢ石間の水は行き悩み
    空澄む月の影ぞ流るる
(氷に閉じこめられた石間の遣水は流れかねているが、空に澄む月の光はとどこおりなく西へ流れて行く)

 きれいな月だよ、と言われて外の方を見ようと、少し姿勢を傾けている紫は例えようもなくかわいらしい姿である。長い髪の具合、顔立ちが、恋い慕い申し上げている藤壺の方の面影のようにふと思われて、素晴らしいので、源氏のよそを向いている女への愛情が少しは紫に戻ってきたのではないであろうか。池の鴛鴦がちょっと鳴いたので、源氏も一人呟く、

 かきつめて昔恋しき雪もよに
   あはれを添ふる鴛鴦の浮寝か
(何もかも昔のことが恋しく思われる雪の夜に、いっそうしみじみと思い出させる鴛鴦の鳴き声であることよ)

 二人几帳に入り横になっても、源氏は亡き藤壺宮のことを思いながら紫に添い寝していたが、現実にか夢かかすかに藤壺の姿を見た、藤壺はたいそうお怨みになっている様子で、
「あれほど貴方は私との仲を他に漏らさないとおっしゃったが、とうとうお喋りになったのですね。つらい噂が広かってしまい、私は恥ずかしく、苦しい目に遭っています。つらい」
 と言う。源氏は言い訳をしようとする時、誰かに襲われるような気がして、横に寝ていた紫が源氏のうなされ声に驚いて
「これ源氏様、どうなさいました、源氏様、こんなにうなされて」
 と体を揺すって言う言葉に源氏は目が覚めて、夢であったか、夢見た怒る藤壺の姿に動悸をする胸を押さえて、涙までも流していたのであった。
 時間がたってもひどく涙を流して顔中ぐしゃぐしゃになっていた。。
 紫が、いったい源氏はどうしたのであろうかと思っている横で、源氏は身じろぎもしないで横になっていた。紫はそんな源氏を胸の中に抱くと、源氏の震えが源氏の背中を通して自分の両乳に響いてきた。源氏は背中に紫の肌のぬくもりを感じつつ心の中で、

 とけて寝ぬ寝覚めさびしき冬の夜に    むすぼほれつる夢の短さ
(安らかに眠られずふと寝覚めた寂しい冬の夜に、見た夢の短かかったことよ)
 
 と詠んでいた。紫の肌のぬくもりが次第に源氏の気持ちを安らかにしていった。

 昨夜見た藤壺の亡霊を恐れてか源氏は紫と朝まで体を結ぶことなく、ほとんど眠ることができずに、早くに起き出し、藤壺の夢のことは誰にも言わずに、所々の寺に御誦経をするように命じた。源氏は、
「苦しい目にお遭いになっていると、お怨みになったが、あの老僧都が帝に言ったことをきっとお恨みになってのことなのだろう。中宮は仏門に入り勤行をなさり、罪障を軽くなさったご様子でありながら、冷泉帝を生むという自分との一夜の隠れた情交で、この世の罪障をおすすぎになれなかったのだろう」
 と、原因が自分にあると思うと、ひどく悲しくて、
「どのような方法をしてでも、行って戻ったためしがない冥界にいらっしゃる藤壺の宮を、お見舞い申し上げて、その罪を代わって差し上げたい」
 などと、つくづくと思うのである。
「あのお方のために、特別に法要をするのは、例にない法要を世間の人が不審に思うだろう。子供である帝も自分の出生を知っているので、良心の呵責に耐えられないかも分からないし、この法要が亡き中宮のためであると悟られるだろう」
 と、大げさなことができないと源氏は、阿弥陀仏を心に浮かべて一心に念仏を唱えた。
 浄土では夫婦が後から来る伴侶のために蓮華の座をあけて待つ。しかし夫婦でない源氏は、とうてい藤壺の横に一蓮托生を望めない。源氏はせめて思いだけは「同じ蓮の上に」と、

 亡き人を慕ふ心にまかせても
    影見ぬ三つの瀬にや惑はむ
(亡くなった方を恋慕う心にまかせてお尋ねしても、その姿も見えない三途の川のほとりで迷うことであろうか)
 と思うのは辛いことであったということであろう。
(朝顔終わり)