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私の読む「源氏物語」ー26ー絵合

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 問い間の気持ちを素直に師の宮に言うと、「どのような学問芸事も心から真剣に教えを受けなければなりません。それぞれの道にはそれぞれの師匠がおられます、そして学ぶ道場とも言うべき所がそれぞれ儲けたれています、それが世間の評判がいいか悪いかは分かりませんが、学んだだけのことは人に分かるものです。筆をとって絵を描く、書詞を書くというのと碁を打つということでは、それぞれ天分という物があって書画の得ての者、語の得意な者とが現れて、あまり熱心に習い事をしなくても充分人に見せられる作品を描いたり、また碁の争いに勝ちを収めたりする者がいるものですが、由緒のある高貴な家の方には、やはり学芸の道に秀でた人がいて、学問にしろ芸事にしろ素晴らしく上達されるものです。亡き父院の御前で私たち兄弟姉妹が色々と学問芸事を習わせられました、その中でも、特に貴方は御熱心に伝授を受けご習得されました、そのことから亡き院は『学問が良く出来ることは言わずもがなで、芸事の中でも琴を弾かせれば当代随一と言われるほどの腕前である。さらに横笛、琵琶、箏の琴まで次々と修得して』と亡き父院も驚いておられました。我々はこれだけは貴方が修得されてとても及び付かないと思っていましたが、今回絵の方にまで、それは絵は少しは描かれるとは思っていましたが、今回お見せいただいた『須磨絵日記』なるようなもの昔の有名な絵描きにも劣らない筆の運びには、本当に驚かされました。」と師の宮は驚きで声がうわずって源氏に語り涙を流しているのを周りの人達二人の話を聞いていて亡き桐壺院を忍んで、悲しみにしおれてしまった。

 三月二十日の月が山から顔を出してきた。源氏達のいる内裏にはまだ光が射してこないのであるが、この時期の月夜の空は美しく絵合わせに集まった人達も別れ別れて帰宅するのもなんだか惜しい雰囲気であったので、書司にある琴を持ってこさせて、和琴を権中納言が担当する。源氏はみんなが知っているとおりに見事な腕前であるが、この中納言の腕もなかなかなものである。帥親王は箏の御琴、内大臣源氏は琴の琴、琵琶は少将の命婦が担当する。殿上人の中から楽に勝れた人に拍子を仰せつけになる。これだけの名人が揃えば演奏はたいそう興趣深いものである。
 演奏は次々と曲を繋いで夜が明けるまで行われた。周りが明けていくにつれて、花の色、演奏する人観覧する人の顔形などがほのかに見えてきて、やがて鳥が囀るころは、何となく快い気分がして、素晴らしい夜明けであるご褒美が藤壺中宮からそれぞれに下された。師の親王は衣をまた重ねて頂戴なさった。

 その後絵合が帝の前で開催されたことが大きな話題となっていた。源氏は、自分の描いた須磨、明石の絵日記は、
「藤壺中宮に差し上げてください」
 と言うことから、この絵日記の全てを見たいと思っていた藤壺は、
「そのうちに順番にご覧下さい」
 と源氏は併せて告げた。帝も同じ気持ちであったのであろう源氏の声を聞いて安心なさったようであった。
 ちょっとしたことでもこのように源氏が大事に取り扱われるので、権中納言は、「この後まだまだ源氏は勢力を伸ばすことであろう」と我が娘の弘徽殿女御のことを思い悔し買った。然し中納言は自分の娘が初めに参内した女御であって、冷泉帝は最初に知った女体で特別な男の愛情があることを想像して頼もしく思い、すべては自分の取り越し苦労であるとしいて思おうと中納言は考えていた。

 内大臣源氏は、世の中は無常なものと今でも思い、後見をしている冷泉帝がもう少し成人するのを待って、やはり出家しようと深く考えていた。
「昔から若くして高位の位について世間から秀でた人と言われた者が、その位に長く留まって長命でいたためしがない。私はこの御代で身のほど過ぎた位になってしまった。途中で須磨に流れたような零落して悲しい思いをした代わりに、今まで生き永らえることが出来たのだと思う。これから後のことは大変こころもとない。どこかに隠遁して、御仏にお勤めを毎日して、命を長らえたいものだ。」 と考えて、山里のゆったりとした場所を探して、籠もりの御堂を造らせ、勤行の道具を誂えているのであるが、まだ小さい子供達のことを考えると、この子供を捨ててまで仏門にはいるのはどうか、と決心が付かない。どういう源氏の心境か作者も知りたいものである。 (絵合終わり)