小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

私の読む「源氏物語」ー23-澪標

INDEX|8ページ/8ページ|

前のページ
 

「女別当、内侍という人が帝の周りに奉仕しているのである。女御となりたい気持ちは誰もが持っていることである。このような中に入っていくのに不足があってはならない、なんとしてでも斎宮の器量を見たいものだ」
 と思うのは、親心だけではなさそうであった。
 自分の心にまだ斎宮を我が女にと言う気持ちがあるので、源氏は斎宮を帝の許へということを人には漏らさなかった。御息所の法要のことなどを立派に行うようにされたので源氏の気持ちを六条家の者達は有り難く感謝していた。

 何もすることもなく、また何事も起こらず六条邸は淋しさと心細さが増していった、今まで仕えてきた人達も少しずつ退職してゆきして、都の南の端にある屋敷も山寺の夕暮れの鐘の音が聞こえてきて、訪れる人もなく毎日を淋しく暮らしていた。斎宮は片時も自分をそばから離さなくて、伊勢下向にも先例がないにもかかわらず、自分の頼みを聞いて共に伊勢に同行してくれた、本当に離れることがなかった御息所が、今回の死出の旅路に自分を連れて行くことが出来なかった、と嘆き悲しんでいた。
 残っている女房達には身分の良い人悪い人とある。だが源氏は、
「たとえ乳母とはいえ勝手なことをすることはまかりならない」
 と親のような言葉に、
「不始末なことを申し上げては大変である」 と互いに言い合って、これといったことをしないようにしていた。

 朱雀院はかって伊勢下向の儀式が内裏の大極殿で執り行われたときに斎宮となって下向する六条御息所の娘の顔を見て、綺麗な方だと思っていた。そのことが未だに忘れがたい思いであったので、伊勢から帰ってこられたおりに、
「院の方に来られてお暮らしになってはいかがですか。丁度賀茂社の斎宮から下がって参った妹もこちらにおりますことですから一緒にいかがですか」
 と御息所に伝えたのであるが、御息所は、
「高貴な方々が居られるところに何の後見もない者が入り込むのは、気ずかいが多いことである」
 と思い、
「院は病気がちの方であるので、私どもがまた心配事を増やすようになっては」
 とも考えて、遠慮をして六条邸で暮らして居られた。処が御息所が亡くなり独りになった斎宮は、誰かが世話をなさらなければと人々は思っているので、親切にも朱雀院はかって御息所に告げたことをまた斎宮にも申し出たのであった。
 源氏はこのことを聞いて「朱雀院の意向に背いて私が斎宮を我が女としては大変失礼に当たる」と思うので、斎宮のような美しい方を朱雀院に取られるのは口惜しいので、尼となった冷泉院の母親である藤壺と相談することにした。
「このようなことが噂されています、斎宮の母の御息所はしっかりと物事を考えられる方でありました。私の若気のあやまちから浮き名を流させることになりました上、私は一生恨めしい者と思われることになったのですが、私は心苦しく思っているのでございます。とうとう生前にこの私と和解することなくお他界される際にこの斎宮の後事を私に頼み置かれました。私としましては、さすがに聞いた以上は遺言を実行する誠意のある者と判断されたとしてうれしゅうございました。なんの関係ない人でも、孤児となった人には同情されるものなのですから、まして私は以前のことがございまして、御息所亡き後でも、彼女の私に対する恨みを忘れてもらえるようなことを娘の斎宮にしたいと思いまして、斎宮の将来をいろいろと考えている次第なのですが、帝もさぞかし大人におなりになったことでしょうし、そろそろ女の方を側に置いても良いのではないでしょうか、いかがですか。」
 と藤壺に語った。
「非常によいことを考えてくださいました。朱雀院もそんなに斎宮のことを我が者にと熱心でいらっしゃることは、なんだかお気の毒で、済まない気持ちもしますが、亡き御息所の御遺言を貴方が聞いてということにして、何もお知りにならない顔で斎宮を御所へお上げになればよろしいでしょう。このごろ院は実際女のことに関しては淡泊なお気持ちになって、勤行にばかりに気を入れているということも聞きますから、斎宮を入内なさっても腹だちになるようなことはないでしょう」
 藤壺は別に朱雀院とは何の関係もないので、源氏が色々と迷うようなこともなくさらりと賛意を現した。源氏は、 
「それでは貴女様のご意向を窺えました。これから斎宮に内裏に上がることをお勧めしてみましょう。あれこれと思い残すことがないように話はいたしますが、関係の人達はどう思うことでしょう。」
 と藤壺に語り、
「知らぬ顔でここへ斎宮をつれてきてしまおう」と源氏は考えた。

 斎宮に源氏は、自分の考えを語って、
「帝は貴方にとってお話し相手として丁度いいお年ごろだと考えています」
 と最後に付け加えて言うと、斎宮はとても喜び入内のことを急ぎになる。

 藤壺は兄の兵部卿宮が娘をいつか冷泉院のそばに入内させようと画策しているのを「源氏との仲が思わしくないのを、どうしたものであろう」と心配していた。
 兵部卿宮は源氏の北の方に納まっている紫の上の父である。
 また源氏と仲のいい頭中将は娘を既に冷泉帝のそばに「弘徽殿」女御として奉仕していた。頭中将は今は権中納言と昇進していた。左大臣の息子で源氏の亡き妻であった葵の上の兄に当たる。
 弘徽殿女御は中納言の娘であるので女御としては入内出来ないのであるが、祖父の左大臣の娘として上がり内裏ではたいした勢いであった。冷泉帝も良い話し相手として寵愛していた。
 藤壺は、冷泉帝十一歳、弘徽殿女御十二歳とまだ幼い域を過ぎていないので、
「二人とも同じような歳であるので、毎日雛遊びをしているようである、斎宮のような少し歳の大きい女が参内すれば、男の道を教えてくれるであろう」
 と思い、帝にも言われる。一方で源氏の全てのことに遺漏なく帝への後見もさらに隙がなく、行き届いた源氏のやり方に感謝をしていた。藤壺は病がちであるので参内しても帝の側に終日控えていることも出来ないので、斎宮のような大人の女が帝の側に控えていることが必要だと思っていた。