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私の読む「源氏物語」ー22-

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 明石の入道がどんなに孫娘を大切にしているかその様子が浮かび、源氏は思わずほほえむことが多く、また幼い姫のことをいとしく思い、姫のことだけが気にかかることであるのは深い愛情のせいであろう。入道当ての文にも、「いい加減な気持ちで姫を養育しないように」と固く戒めていた。

 いつしかも袖うちかけむをとめ子が
     世を経て撫づる岩の生ひ先早くわたしの手元に姫君を引き取って世話をしてあげたい
(早くわたしの手元に姫君を引き取って世話をしてあげたい、天女が羽衣で岩を撫でるように幾千万年も姫の行く末を祝って)

 入道は乳母の一行が到着すると喜び恐縮申すこと、この上ない。京に向かって手を合わせて源氏の気持ちに感謝をする。入道益々源氏の娘である孫を大切に思うと共に身の責任を痛感した。
 子供の母親である明石の君も源氏が明石を離れ子供を産んだにもかかわらず連絡も少なくて沈んでおり、気持ちも弱りこのまま死んでしまうのではというところへの乳母の到着で気分も少し楽になり源氏の使いで乳母の宣旨を連れてきた使者に、最高のもてなしをして労をねぎらうのであった。
使者は自分の任務も終わり早く都へ帰りたいと思うのであるが、明石の君は源氏への伝言を少しと、次の歌、

 ひとりして撫づるは袖のほどなきに
覆ふばかりの蔭をしぞ待つ
(わたし一人で姫君をお世話するには行き届きませんので、大きなご加護を期待しております)

 と書き記した文を使者に託した。貰った源氏は早く見たいと思うことであろう。

 源氏は紫の許に出向いてはっきりと言葉で明石の君に自分の女の子が生まれたことを告げる、源氏は将来この娘のことで何かあると困るのと思い、
「はっきり申しておくが、貴女に子供が授かることを私の頭には常にありました。でも貴女にはなかなか授からない、それが口惜しかった。本当に欲しい貴女にはその兆しがなく、少しだけの関係であった明石の女に出来るなんてどうしたのかと思っています。まあ女の子ですから私としては気に入らないのですが。このままほっといても良いのですが、そうもいかないと思います。
明石から呼び寄せて貴女にご対面させましょう、決して私を憎まないでください。」
 聞いていた紫は、嫉妬心や怒りが混じって顔を赤くして、
「このような非道いことを、常々このような浮気されることを平気で言われるその心は、聞いていて私が情けなく思っています。嫉妬するという心はいつ貴方から教えて貰えばいいのですか、こう次々と浮気されて。」 紫が源氏を責めると、源氏は笑いながら、「それは誰が教えると言うことですか、意外なことをお言いですね、人が何も言ってないことを勝手に考えて僻みなさるな、悲しいことです。」
 と紫に言って最後は涙を流してしまった。この数年二人は離ればなれになってお互いに恋しく思って何回も文を交わしたことなどを思いだして紫は、
「源氏様にまつわる全てのことは、あの人の遊びである」
 と思い自分の心の疑いを消してしまった。源氏は、
「明石の女をこのようにまで紫に語るのは、色々とこの後のことを考えているからですよ。あまり早くに貴女に伝えると何か疑念に思うことが起こるのではないかと気を遣っているのです」
 と源氏は紫に言い、
「それに人柄がいいと思ったのも、明石という田舎で会ったからでしょう、こんな処にまず美しい人がと思ったのですよ」
 更に付け加えて源氏は語った。
 源氏は淋しかった塩を焼く煙が漂う須磨の海、明石へ入道より招待された経緯、その娘に紹介されて文を交わし歌を詠みあったこと、女の顔をかすかに見たこと、そのとき彼女は琴を弾いていてそれが素晴らしく上手であったこと、等々明石で源氏が感じたこと実際に経験したことを充分とは言えないが紫に説明しても紫は、
「源氏様が須磨に流されていた間私はどんなに淋しい思いをしていたのか、それなのに他の女に愛情を移されるとは」
 と嫉妬の気持ちが収まらない、
「あなたはあなた、私は私で、お互いに別々の心なのですね」
 と源氏に背を向けて、
「昔は仲睦まじく暮らしましたのに」
 と独り言のように言って、

 思ふどちなびく方にはあらずとも
     われぞ煙に先立ちなまし
(愛しあっている同士が同じ方向になびいているのとは違って、わたしは先に煙となって死んでしまいたい)
 と紫は先に源氏が語った塩焼く浜の言葉尻をとって今の心境を詠う。
「嫌なことを言う」
 と言って源氏は紫に返歌を詠う、

 誰れにより世を海山に行きめぐり
      絶えぬ涙に浮き沈む身ぞ
(いったい誰のために辛い世の中を海や山にさまよって止まることのない涙を流して浮き沈みしてきたのでしょうか)
 
 さて、このことをどう思われます。命というものは望み通りにはならないものです、こんな詰まらないことで貴女から恨まれまいとするのも、ただ一人貴女だけを愛しているからですよ」
 と紫に言って傍らの箏の琴を取り上げて弾き始める。紫も弾くようにと誘うように源氏は弾くが、紫はあの明石の女が琴に優れているという源氏の言葉が引っかかって、嫉妬の気持ちが治まらないのか手を触れようともしなかった。紫は一見しとやかであるようでまさかこんなに頑固なところがあるとは、嫉妬で顔をきつくして源氏を睨んでいる姿に源氏はまたこれも可愛い愛すべき姿だと思っていた。

「そうそう五月五日は姫の五十日の祝いの日に当たるのだ」と源氏は人には分からないように勘定して、懐かしくしみじみと感じ入っていた。「京に居れば、どんなにしても立派に祝いをしてやることが出来るのに。明石に居てはどうにもならない口惜しいことだ。どうしてあのような処で生まれたのであろう」
「男の子であったならばこんなに心配をすることもないのだが、女の子で可哀想に、だが私の運勢も、この姫の誕生のために、一時欠けることもあったのだが、須磨、明石の流離は、立后を予言されている姫君誕生をもたらすためだった」
 と思うのである。
 使いを明石に送ることにした。
「必ず五月五日には明石に到着するのだぞ」 と厳命された源氏の言葉通りに使者は明石に到着した。
 源氏からの贈り物は本当に珍しく立派な物ばかりで、細かい文が添えられてある。

 海松や時ぞともなき蔭にゐて
   何のあやめもいかにわくらむ
(海松は、いつも変わらない蔭にいたのでは、今日が五日の節句の五十日の祝とどうしてお分りになりましょうか)
 姫のことを思うと心が落ち着くことが出来ません。このままでそちらで過ごすことは止めてください。都へ上がることを考えてください、決して心配はさせません。」
 と明石の君への言葉が書き加えてあった。

 父の入道はこれを聞くと喜びのあまり涙を流していた。こういうときは彼にとって生きていた甲斐があったと思うのも無理のないことであった。
 明石でも姫の五十日の祝いの準備を盛大にしていたのであるが、源氏からの使いが