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私の読む「源氏物語」 ー6-

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「七月七日長生殿に夜半に人無くして私語せし時天に在らば願はくは比翼の鳥作らむ地に在らば願はくは連理の枝為らむ」という長恨歌は、約束をした相手の楊貴妃は殺されたので、今はそれは不吉であるので、翼を交そうとは言わずに、弥勒菩薩が出現する未来までの愛を約束なさる。弥勒菩薩のこの世に現れるのはいつになるのか、そのような長い約束とは、まことに大げさであると言わねばならない。
 とてつもないことを詠った源氏の歌を受けた夕顔の女は、源氏に歌を返す。

 前の世の契り知らるる身の憂さに
 行く末かねて頼みがたさよ
(前世の宿縁の拙さが身につまされるので、来世まではとても頼りかねます)

 このような返歌のし方なども、実のところ、女は源氏との先行きが心細いのである。

 山の端に入りそうでなかなか入らない月のように、源氏が出し抜けに女に行く先も告げずに出かけようとするのを、女は躊躇し、源氏がその不安を消そうと、いろいろと女を説得なさるうちに、十五夜の月が急に雲に隠れて、十六日の朝が明けて行く、空を見れば実に美しい。人目に付かない前にと、いつものように急いで外に出て、軽々と抱えてきた夕顔の女を車に乗せてしまった。右近がそれに続いて乗った。
 五条に近いところにある帝の御領である某院に源氏の一行は到着して、管理人を呼び出す間源氏は車の簾を上げて荒れた門の忍ぶ草の生い茂った廂がを見上げ、またたくさんの大木が暗い影を作っているその奥を見ている。周りは朝霧が深く、露っぽいところに、車の簾まで上げているので、源氏の衣の袖がひどく濡れてしまった。源氏は独り言のように女の顔を見ずに、
「このようなことを初めて経験したが、不安なものだね」

 いにしへもかくやは人の
   惑ひけむ我がまだ知らぬ
         しののめの道
(男が恋をしたならば、昔の人でもこのように恋の道に迷ったのだろうか、このような明け方の道中を、わたしはまだ経験したことがない。)
 貴女はご経験なさいましたか」
 と源氏は女に言うと。女は、恥ずかしがって、

 山の端の心も知らで行く月は
   うはの空にて影や絶えなむ
(山の端をどこと知らないで随って行く月は
途中で光が消えてしまうのではないでしょうか)
 心細くて」


 と言って、何となく怖がって気味悪そうに思っているので、「あの小さな家が一杯建て込んでいるその一つの小家に住み慣れているからだろう」と、源氏は世間知らずおもしろく思ってしまう。

 やがて管理人も来て車を中へ誘導し、西の対に居所を準備する間、西の対の高欄に牛車の轅を掛けて二人は車の中で待っている。右近は主人源氏のことながら、浮き立つ気持で、これまでのあの夕顔女のもとに頭中将が通ってきたころのことのを、一人思い出すのであった。管理人が一生懸命奔走している様子から、右近はこの男がが源氏を知っているなとよく見ると二条院にも出入りする下男であった。

 ほのかに物が見えるころに、二人は牛車から下り、仮ごしらえだが、こざっぱりと片づけた座敷に入った。この管理人は
 「お供にどなたもお仕えいたしておりませんな。不都合なことですな」と独言を言いながら、右近とは親しい下家司で、左大臣にも仕えている者だったので、右近に近づいて、
「適当な人を、お呼びなさるべきではありませんか」
 などと、右近を通じて源氏に言うのであるが、源氏は、
「わざわざ人の来ないような隠れ家を探し求めたのだ。決して他人には言うな」
 と右近と管理人に口封じを命じた。