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私の読む「源氏物語」ー5-

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空 蝉

 光源氏と呼ばれるこの貴公子は母親の桐壺の更衣と死に別れたのが三歳、六歳の時に桐壺の更衣の母親と死に別れ、そうして帝に引き取られて元服も済み左大臣の娘葵の上と結婚をしてここに十七歳となった。
 空蝉とどうしても関係を結ぼうと色々と手を尽くすが不首尾に終わり、身体からたぎりたつ空蝉を求める血の騒ぎで寝られないまま紀伊の守の屋敷で横に寝ている小君に、
「我は、こんなに女から冷淡に扱われたことは一度もなかった、今夜という今夜は世の中がこんなにも寂しく悲しいものということを初めて思ひ知らされた、こんな姿を人前にさらして恥づかしくて、生きていることが出来ない思いだ」
 など語りかけるので、聞いている小君は、自分の責任だとばかり涙をこぼして横臥している。その姿が源氏には可愛く見えるのである。源氏は小君を愛撫しながら、先夜、空蝉と契った時の感触を思い出す。小君の手触りから、空蝉のほっそりした小柄な体つきや、髪のたいして長くはなかった感じが姉弟だから似通っている。むやみにしつこく空蝉を追い回し求めるのも、格好悪いことだろう、本当に癪に障るがと夜を明かしてしまい、小君にいつものようについて参れと言うこともなく。夜の明けないうちに帰ってしまった。小君は、源氏がたいそうお気の毒であると思うと同時に、何となく置いて行かれた自分がつまらないことと思う。

 空蝉も、大変失礼なことを源氏にしたと気がとがめていたが、源氏から手紙もまったくない。これで源氏は懲りたのだろうと思うが、「このまま私に興醒めて口説くのを止めてしまわれたら嫌な思いが残るであろう。強引に私に迫ってくる困ったお振る舞いが続くのもお互いに嫌なことであろう。適当なところで、こうしてきりをつけたい」
 と思うものの、空蝉の心も平静ではなく、源氏のことが頭から離れない。

 源氏は、空蝉との間がうまく行かないのを気にくわないと思っているのであるが、このままで手を引いてしまうなんてとても出来ないと何時も心の片隅に思っており、ことあるごとに小君に、
「お前の姉のことを思うととても辛くて、そんなじぶんが情けなく思い、無理にでも忘れようとするが、それも出来ず苦しいのだよ。お前が適当な機会を見つけて、逢えるようにしてくれぬか」
 と言い続けるので、小君はやっかいな事と思うが、源氏が私を信じてお命じになってくださることは、嬉しいのであった。

 小君は子供ながらも、何とか機会が有ればと待ち続けていると、紀伊守が任国へ向かったりなどして、屋敷の女房たちがくつろいでいる、そんな夕暮れになって道がはっきりしないのに紛れて、小君は自分の車に源氏を乗せ紀伊の守の屋敷に連れて行った。。
 小君も子供なので、どうだろうかと源氏は心配するが、そう悠長にも構えていられない良い機会だ小君の策に乗ってみようと、目立たない服装で、屋敷の門に鍵がかけられる前にと、急いで出かけていった。
 人目のつかない方から車を引き入れて、源氏を降ろし、子供のことであるので宿直番の男も特別に気をつかって出迎えたり機嫌を取ったりしてで迎えに出ず、簡単に門を通り抜けた。
 寝殿東の妻戸の側に、源氏を待たせて、小君は南の隅の間から、格子を叩いて声を上げて入った。部屋の中の声が源氏の耳にはっきりと聞こえてくる、小君が
「どうして、こう暑いのに、この格子を下ろしておられるの」と尋ねると、
「昼から、西の御方がお渡りあそばして、碁をお打ちあそばしていらっしゃいます」
 と言う。西のお方とは紀伊守の妹。軒端荻のことである。
 源氏はそのことを聞くと碁を打って向かい合っている人物を見たい、と思って、静かに歩を進めて、簾の隙間に入った。
 先程小君が入った格子はまだ閉めてないので、隙間から中が見えるので、近寄って西の方を見通しすると、こちら側の際に立ててある屏風は、端の方が畳まれているうえに、目隠しのはずの几帳なども、暑いからであろうか、まくり上げてある、碁を打つ女性二人は丸見えである。

 源氏がよく見ると、灯火が近くに灯してある。母屋の中柱に横向きになっている人が自分の思いを寄せている空蝉かと、まっさきに目をお留めになると、夏なので濃い紫の綾の単重襲姿の上に何か羽織って、頭は小さく小柄な人で、顔は、向かい合っている人などに見えないように気をつけている。手つきも痩せた感じで、袖の中に引き込めているようだ。
 もう一人は、東向きなので、全身がすっかり見える。白い羅の単衣に、二藍の小袿のようなものを、しどけなく引っ掛けて、紅の袴の腰紐を結んでいる際まで胸を露わにして、行儀の悪い恰好である。色白で美しく、まるまると太って、大柄の背の高い女で、頭の恰好や額の具合は、はっきりとしていて、目もと口もとが、とても愛嬌があり、はなやかな容貌である。髪はとてもふさふさとして、長くはないが、垂れ具合や、肩のところがすっきりとして、どこをとっても悪いところなく、美しい女だ、と源氏には見えた。
 これでは親がこの上なくかわいがることだろうと、源氏は興味をもって眺める。動作に、もう少し落ち着いた感じがあればと軽く思われる。才覚がないわけではないらしい。碁を打ち終えて、だめを押すあたりは、機敏に見えて、陽気に騷ぎ立てると、奥の人は、とても静かに落ち着いて、
 「お待ちなさいよ。そこは、持でありましょう。このあたりの、劫を先に数えましょう」 などと言うが、
 「いやはや、今度は負けてしまいましたわ。隅の所は、どれどれ」と指を折って、「十、二十、三十、四十」などと数える様子は、流行の歌「伊予の湯の 湯桁は幾つ いさ知らずや」の湯桁でもすらすらと数えられそうに見える。だが少し下品な感じがする女である。
 空蝉は極端に口を覆って、はっきりと人に見られないようにしているが、源氏がじっと見ていると、自然と横顔も見える。彼女は目が少し腫れぼったい感じがして、鼻筋などすっきり通ってなく老けた感じで、はなやかな様子も見えない。あれこれあげていくと、悪いことばかりになる容貌をうまく取り繕って、傍らの美しさで勝る人よりは嗜みがあるように、人の目が引かれるような姿をしている。
 朗らかで愛嬌があって美しいもう一人の女は、ますます遠慮をすることがないのでますますくだけて気を許し、平気で大笑いなどをしてはしゃいでいるので、はなやかさが表面に見えて、それなりにとても美しい人である。こんな事を考えては気の多い男と思われるが、何分お堅くない源氏の心には、この女も捨てておけない我がものにしたいのであった。

 源氏は内裏暮らしや左大臣の屋敷で知る範囲の女性は、くつろいでいる時がなく、またそんな姿を男達に見せることはない。取り繕って正面の顔を隠し横顔を向けたよそゆきの態度ばかりを見るだけだから、このようにくだけて気を許した女の様子ののぞき見などは、まだしたことがないので、女達が源氏に気づかずにすっかりだらしない態度を見られているのは気の毒だが、しばらく見ていたいと思いながらも、小君が出て来そうな気がするので、そっとその場を離れた。
 源氏は小君を待ってずっと渡殿の戸口に寄り掛かっていたという態度を小君に見せていた。小君はとても恐れ多いと思って、遅くなった理由を、