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私の読む「源氏物語」ー4-

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 源氏は小君をあちらこちらに連れて歩きなさって、内裏にも参上した。さらに自分の衣装を裁縫する御匣殿に命じて、小君の装束なども調達させ、本当に親のように面倒見る。
 源氏から空蝉への手紙はいつもある。けれど、空蝉は小君はまだ幼い、うっかり文を落とし他人に読まれたならば、変な浮名まで背負い込むことになる、そうして私の悪い噂が広まっていく、幸せと言うものは自分の身分に合ってこそと思って、源氏には恋の一字も許した返事は差し上げない。先夜ほのかに見た源氏の感じや様子は、
「本当に、そこらの男と較べようもなく素晴らしい人だった」
 と、思い出すのであるが、
「源氏の気持ちに応えても、今さら私にとって何になるだろうか」
 などと、考え直すのであった。

 源氏は、空蝉を忘れる時がなく、先夜しとねから抱いて連れて行こうとした時のあの柔らかな女の感触を思うと心苦しく、あの身体を我がものとしようとしたあの狂わしい気持を思い出している。そして空蝉が身体の関係がなくとも夫でない男と二人だけである時間過ごしたということで悩んでいた様子がいじらしい姿は、源氏の頭から払い除けようもなく思い続けている。出かけていって軽々しく立ち寄りするのも、人目の多い所であり隠れるところもないので、そこらの人に二人の不都合な振る舞いを見せはしまいか、そうなると相手にも気の毒である、と色々考えては思案にくれている。

 いつもながらの内裏の長逗留して、都合のよい方違えの日が来るのを待っている。そしてその方違えの日が来て源氏は自分の屋敷に帰らずに、途中から方違えのため道を変えて紀伊の守の屋敷に出向いた。
 突然の源氏の来訪に紀伊守は驚いて、先日源氏が庭園の遣水を褒めたことを光栄に思い、また今日もと恐縮し喜ぶ。源氏は内緒で小君に、昼から、「こうしようと思っている」と約束していた。朝に夕に連れ従えている小君のことである、今宵も、まっさきにお召しになった。
 空蝉も、小君が源氏から預かってきた文で、自分と合うために彼が工夫をこらした計画をする気持ちのほどは、自分と通り一遍の身体をかすめる程度のつきあいという浅いものとは思わないが、そうだからといって、体を許してしまえば、源氏に対してあまりにみっともない自分を見せしまう、そして源氏との身体のつき合いが終わってしまい、二人の関係が夢のように過ぎてしまったときの嘆きを、夫伊予の督と味わっている味気なさを更にまた源氏との間で味あう、どうしていいのか心の中かが思い乱れて、やはりこうして源氏を待ち受けることが気恥ずかしいので、小君が源氏の前に出て行った間に、
「とても客間と近いので気が張ります。それに私気分が優れませんので、あちらの部屋でこっそりと肩腰を揉んだり叩かせたりいたします」
 と伝えて、渡殿に、中将の君が部屋を持っている奥まった処に、移ってしまった。
 源氏は空蝉と夜のことがあるので、供人たちを早く下がらせて寝静まらせ、小君に空蝉に連絡するが、小君は空蝉の所在がつかめない。すべての場所を探し歩いて、渡殿に入りこんで、中将の君の部屋で空蝉をやっとのことで探し当てた。姉の行動は酷いと小君は、
「こんなに時間を掛けて探し回りました、姉上様、私がどんなに役立たずな者と、源氏様がお思いになるでしょう」
 と、半分べそをかきながら泣き出してしまいそうに言うと、
「このような、源氏様のとんでもない不埒な考えを、子供の貴方が事のなんだかわかりもしないでこのように取り次ぐのは、とんでもないことですよ」
 と空蝉は小君にきつく言って、
「私は『気分がすぐれないので、女房たちを側に置いて身体を揉ませております』と源氏様にお伝え申し上げなさい。こんなこと変だと皆が見るでしょう」
 空蝉はつっぱねたが、心中では、
「ほんとうに、このように伊予の督の夫という定まった身の上でなく、亡くなった親の御面影の残っている邸にいる身であったら、時々しかお出でにならない殿を待ち申し上げるということであっても、喜んでそうしたいところであるが。今はそうはいかない、源氏様のお気持ちを無理に分からないふうを装って無視したのも、後ろ盾のない下級官吏の娘がと、どんなにか身の程知らぬ者のように源氏様はお思いになるだろう」
 と、自分では心の中で解決さしても、胸が痛くて、やはり心が乱れる。
「どうあろうとも、今は変われない運命なのだから、非常識な気にくわない女で、押しとおそう」
 と空蝉は思い諦めた。

 源氏の君は、どのように手筈を調えるかと、
小君がまだ小さいので不安に思いながら横になって待っていると、小君が御前に帰ってきて不首尾であった旨を申し上げるので、源氏は空蝉の驚くほどにも珍しい強情女なので、「こんな事を言いだした私がまことに恥ずかしくなってしまった」
 と、とても落ち込んだ様子である。しばらくは何も言わない、何回もため息をついて、こんな辛いことと思ていた。

 帚木の心を知らで園原の
 道にあやなく惑ひぬるかな
(近づけば消えるという帚木のような、あなたの心も知らないで園原への道に、空しく迷ってしまったことです。と「帚木」という信濃国の園原の伏屋に生えていたという箒を逆さにしたような恰好をした木で、遠くから見ると見えるが、側に近づくと消えてしまうという伝説上の木を取り上げて歌にする。)
 申し上げるすべもありません」
 と空蝉に詠んで贈られた。女も、やはり、まどろむこともできなかったので、
 数ならぬ伏屋に生ふる名の憂さに
   あるにもあらず消ゆる帚木
(しがない境遇に生きるわたしは情けのうございますから、見えても触れられない帚木のようにあなたの前から姿を消すのです)
 と空蝉は源氏に返り歌を贈った。
 小君は源氏の君を気の毒に思って源氏と姉君との間をうろうろと往復するを、女房たちが変だと思うだろう、と空蝉は心配する。

 供人たちは眠りこけているが、源氏はぼうっと白けた感じで空蝉のことを思い続けているが、彼女の他の女と違った気の強さが、彼の心から消えるどころか益々はっきりとしてくる、源氏はものに出来なくて悔しく、こういう気の強い女であったから心惹かれたのだと、一方では思いになるものの、若い男である源氏は空蝉と思うようになれないことが癪にさわり、情けない。諦めきれず、ええいどうともなれと、小君に、
「空蝉の隠れている所に、吾を案内せい、連れて行け」
 というのであるが、小君は
「とてもむさ苦しい所に籠もっていて、取り巻きの女房が大勢います、恐れ多いことで」
 と申し上げる。気の毒にと思っていた。
 「それでは、小君おまえだけは、わたしを裏切るでないぞ」
 と言って、小君を側に添わせて寝かせなさった。小君は源氏をお若く優しい態度を、嬉しく素晴らしいと思っているので、この子の方があの薄情な空蝉よりも、かえってかわいく思われた。
            (帚木終わり)