私の読む「源氏物語」ー2ー
源氏は本当に驚き胸が苦しくなるほど心臓が動悸していた。そして、帝と藤壺の女御が自分の居るところで時々こんな事をされていたなと思い出していた。源氏は葵がこの次になにをしてくるのかと少々恐ろしく感じていた、が無理に体を離すには女の肌が触れているのに身体が喜びを感じていてそのまま葵のなすがままにしていた。
葵は次第に手を下の方に持ってゆき、やがて源氏のものを手のなかに握った。見た絵より少し小ぶりだなと思った。熱くなったものは葵の手の中で躍動していた。葵の方も自然と源氏のものを待ち受けている。葵はためらった、どういう方法で受け入れるのか、絵では具体的な方法については説明しかねるところがある。男女の仲は自然と分かり合えるものである、時間が掛かったが葵はあくまでも姉のように振る舞ってついに源氏と一つになった。
「痛い」と葵が言った時源氏は、自分が何か相手に傷でも負わせたのかと起きあがりかけたが、上から葵はそれをしっかりと押さえつけて、
「何でもありません源氏さま」
と安心させた。
葵の父左大臣は帝から大変信頼されている、というのは后の方が帝と同じ母親を持つ兄妹の関係であったからである。どちらから言っても立派な上に、今帝の二ノ宮である源氏までがこのように娘の葵の婿君として加わったので、弘徽殿の女御の一ノ宮、東宮の御祖父で、天下を支配なさると言われていたはずの右大臣のご威勢も、左大臣の威光に圧倒されてしまった。
左大臣にはご子息たちが大勢正妻の北の方以外のそれぞれの夫人方にいらっしゃるが、北の方がお生みの方は、源氏の嫁になった葵の外に、兄に蔵人少将がおられた。若く美しい方なので、右大臣が、左大臣家との間柄はあまりよくないが、それでも他人として置くには色々と政治ごとで放っておくこともできない、そこで右大臣の大切になさっている四の君の婿となさっていた。四の宮の母御は弘徽殿の女御の妹に当たる。大切にお世話なさっているのは、両家とも理想的な婿舅の間柄であるからであった。
源氏は帝から毎日のようにお呼び出しがあって、ゆっくりと左大臣の家に落ち着いているわけにはいかなかった。元々源氏は葵と結ばれる前から口には出されないが心中では、ひたすら藤壺を、またといない方とお慕い申し上げていた。葵と結ばれてからは、
「藤壺の女御のような方を妻になってもらいたい、似た方もいらっしゃらないな。葵の姫君は、魅力もあり大切に育てられて心も素直な方だと思われるが、心惹かれない」
幼心一つに思いつめて、とても苦しいまでに悩んでいた。
元服は大人になった儀式である。源氏は元服の後は今までのように帝の御簾の中に入っていくわけにはいかない。帝もまたそんなことを許されない。源氏の吹く笛の音色に御簾の内側から藤壺が琴の音を合わせて弾くことによって彼女と気持ちを通じ合わせている。
藤壺のかすかな声が源氏には慰めになり、内裏から離れられず、なるべくは内裏に寝泊まりしていた。
五六日内裏、二三日左大臣邸と、続いて葵の元に居ることはなかった。まだ今はお若い年頃であるので、左大臣や葵もつとめて咎めだてすることなく許しておられ、婿君として源氏は大切にされていた。
源氏と葵に仕える女房たちは、世間から並々でない器量の良い女達を選りすぐって仕えさせ。源氏がお気に入りの遊びをし、精一杯二人を世話するように左大臣とその北の方は気を配っていた。
内裏では、帝は、もとの淑景舎、桐壺を源氏のためのお部屋にあてて、母御息所にお仕えしていた女房を退出させずに引き続いて源氏に仕えさせるようになさった。
一方源氏を婿に迎えた左大臣邸は、帝は、修理職や内匠寮に命じて、またとなく立派にご改造させなさる。もとからの木立や、築山の様子、趣きのある所であったが、池をことさら広く造って、急いで立派に造営する。
源氏は工事完成を眺めて、
「このような所に、理想とするような女性を迎えて一緒に暮らしたい」
と、自分の結婚が世の中のやり方と違って帝と左大臣によって決められたことに対して不満があり、自分で良き女を見つけて妻にしたいと胸を痛めていた。
源氏のことを「光源氏」と呼ぶのは、
「高麗人がお褒め申してお付けしたものだ」と、言うところからのことである。
作品名:私の読む「源氏物語」ー2ー 作家名:陽高慈雨