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お題に挑戦

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うぐいすのさえずり【三】



「笛」「ウグイス」「殴る」

**********

「ホーホケキュッ!」

 春も爛漫で、暖かでのどかな日が続くこの頃。
 私はどういうことか上手く鳴けなかった。
 薄桃色の桜に映える黄緑の鶯色。なんと春らしいコントラストだろう。
 それなのに私は上手く鳴けない。上手く鳴けないと怒られて、仲間から突つかれてしまう。痛いからやめて欲しい。
 ところで、私が普段過ごしているこのねぐらから見えるところに一軒の家がある。今時赤い屋根で白い壁の可愛らしい家だ。桜と鶯並に良い色の組み合わせだと思う。
 さて、話は戻るが、この家からは常に華麗なピアノの音色が聞こえる。上手く鳴けない私からしてみれば、大変素晴らしい旋律を奏でていると思うのだが、そうでもないらしい。窓から見える情景によると、鍵盤ミスタッチにより突然ぴたりと旋律が止んだかと思うと、少年ピアノ演奏者の傍にいる大人が鍵盤をばぁーんと叩く。そして次に聞こえてくるのは金切り声で、それからうら若きピアノ奏者に折檻を施している様子を見ることが出来る。
 上手く鳴けない私と同じで、うら若きピアノ奏者も上手く演奏が出来ないと、殴られてしまうようだ。
 だが大人は子供の手を叩くだけでなく、その可愛い体を蹴ったり殴ったりしている。少々やり過ぎではないだろうか。

「ホーホケッキュン…」

 やはり私も上手く鳴けない。
 ところで皆さまご存知だろうか。鶯のさえずりというのは、将来の私の妻に対する愛のメッセージなのだ。
 私がいる近辺は安全で素敵な場所ですよ、さぁここで子供を作って、育てて行きましょうよ、というメッセージが込められている。だから、上手に鳴ければ鳴けるほど、モテ鶯なのだ。
 しかし、こんなに上手く鳴けないと、メス鶯は私なんかに興味を持ってくれない。
 場所は良いと思うのだ。怖い敵もいないし、赤い屋根の家からは、素敵なピアノの旋律が聞こえてくるのだから。綺麗な声で鳴けないのが口惜しい。

「ホーホケキョ!」

 なんと、私よりも上手に鳴く鶯がいるようだ。きょろきょろあたりを見回してみるが、鶯の影は全く見えない。
 
「ホーホケキョ!」
 
 おや、どうやら、この上手な鳴き声は我々鶯のものではなかったようだ。
 あの赤い屋根のピアノの部屋の窓から子供が顔を出している。その手には竹で出来た小さな笛が握られている。我々鶯の飾りがついた、大変可愛らしい笛だ。確かに良く聞いてみると、我々の鳴き声とは少々違う音をしているけど、子供は上手に鶯笛を吹いている。
 ふむふむ。私から見れば、あの子供は大人に殴られたりして可哀相な子供なのかな、と思ったが、ここまで上手に鳴けるということは、きっと平和で幸せなのだろう。

「ホーホケキョ!」

 私もお返しに渾身の力を込めて鳴いてみたが、なかなか上手に鳴けたと思う。あの子供も、嬉しそうにまた鶯笛を吹く。
 それから、あの子供は再びピアノを弾く。やはり素敵な音色だ。あの大人がいないほうが、この子供は上手にピアノを弾くことが出来るのではないだろうか。

「ホーホケキョ!」

 私は上手に一鳴きすると、可愛らしいメスの鶯がこちらに飛んで来るのが見えた。


作品名:お題に挑戦 作家名:藍澤 昴