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天国からの脱出

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怒るべきか喜ぶべきか




しゃがんで様子をみようとしたオレの横を誰かが急いで通り過ぎていく。ちらっと見えたのは消火器のようだった。まだ、何が起こっているのか分らなかったが、危険は無いという雰囲気だけは分かった。

「姿を現しました。ちょっと話を聞いてみましょう」
この流ちょうな喋りはアナウンサーか、そう思いながら部屋に降り立つ。
「この状況はどう思います?」
オレにインタビューしているようだ。これって事件になっていたのか、いやテレビでは見ていない。
「何だ、何、これ?」
オレはこれしか言葉が浮かんでこない。

「あ、女性の方も一緒にどうぞこちらへ」
アシスタントだろうと思われる女性に連れられて明菜がそばにきた。おびえている様子はない。この短い間に軽く化粧をしたか、やって貰ったようで、普段の顔と違った。明菜はオレを見上げて、「ドッキリだったみたいよ」と囁く。

「出られなくなったと知った時、何を思いましたか?」
マイクを向けられ、オレは自分では思っていなかった思う言葉が出た。
「よかったと思いました」
「えーっ 良かったとおもったんですか、どうしてでしょう」
照明を浴びながらのインタビュー、オレは少し快感を感じていた。そして答える。
「楽出来るからです」
「なるほど、出られないんだもんという言い訳ができましたですね。じゃあ女性の方に聞いてみましょう。どんな気分でした?」
「はい、とても不安になって、それが抜けなくて毎日が痩せる思いでした」

明菜が笑いをとっている。それが受けたのか明菜へのインタビューが続いているので、オレはディレクターと思われる人物に近づいて、疑問点を訊ねてみた。
「あの丸太の柱から、こんなに大勢でどうやって入ってきたんですか?」
「あ、じゃあ行ってみましょうか」
明菜の所とは別にカメラマンがいたようで、照明係と一緒についてきた。

あの檻のような丸太の柱が玄関の幅くらい無くなっていた。上を見てそれが引き上げられたのだと分かった。
「リモコンで上下に動くんですよ。非常事態にすぐに入る体勢で待機していました。ほらあそこに」
すぐには分からなかったが、バードウォッチング趣味のひとが使うカモフラージュされたテントだとわかった。
そのリモコンを押したのだろう、丸太が降りてきて檻がふさがった。
「実は、この柱にもう一つ細工があるんです」
またボタンを押したのだろう、丸太が回り出した。
「えっ、そんな!」
柱が太くなっている。さらに別の回転をさせたようで、今度は細くなった。

「じゃあ、最初のままだったら、出られたんじゃないの」
オレは悔しさもあって大きな声をだす。
「ま、微妙な所ですね」
オレの太った身体を見ながらディレクターは言った。

       *        *

どうやら某大学の人間行動学の教授の実験もかねてのどっきりだったようだ。屋根を少し燃やした時点で、緊急事態ということで侵入したらしい。もう一組の実験と収録のため、放映が半年後であることと、編集結果を見てOKを出すことの契約があった。恥をさらす代わりに得たお金で生活しながら新しい職場を探すことがこれからの生活になりそうだった。

契約といえば、明菜はその太った身体をもとに戻すドキュメンタリー番組の収録の契約をしたという。

どれだけの醜態が録画されているか分からないが、楽しい日々だったということだけは確かだ。自力で“天国”から脱走して見たかったのが出来ないまま終わったのが心残りではあるが。

【終わり】
作品名:天国からの脱出 作家名:伊達梁川