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サーキュレイト〜二人の空気の中で〜第十九話

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 「……」

 何か、夢のようなものを見ていたのに、思い出せなかった。
 それは、当たり前の日常の、幸せな夢だった気がする。

 オレは、何度意識を手放し、そして目覚めるのだろう。
 それこそ、醒めない悪夢のように現実は再びやってくる。


 既に当たりは暗くなり、陽も落ちているようだった。
 空は曇ったままで、月も星も見えない。

 夢の残滓が、まだ残っているような気がして。
 今この独りでいる闇こそが本当は全部夢だと、早く目が醒めればいいのにって思うのに、快君の剣を受けた腕の傷は、しっかりと残っていて。

 それが、全てが現実であることを物語っているようで。
 暗闇はただ暗闇のまま、いつまでも、変わることはなかった。


(何で、オレだけ……こんなところに、いるんだろう?)

 視界一杯に広がる闇を見ながらそう思う。

 ―――今独りなのは、仲間だと思っていたのに、裏切られたから。


 (違うさ、彼らは、黒陽石に操られていたから……)

 オレは首を振って否定しようとする。

 ―――操られたのは、彼らの心の弱さ。いくつもの命を奪い、オレの命も危険に晒した……だからもう、関わるべきじゃない。

 しかし、容赦なく、言葉の羅列は止まらない。

 (そんなこと言うな! オレだって何もできなかった、止められなかったじゃないか!)

 ―――そう、オレは力がない。何もできなかった。だから、生きていることを幸運だと考えるべき。


 事実は、何て痛いんだろう。
 オレは、胸元を押さえつけるようにぎゅっと掴んだ。


 (……幸運だって? みんながいなくなって独りで何もできないでいる、この状況が?)

 ―――ここにこのまま残るのは、得策じゃない。一刻も早く、ここから出る方法を考えるべき。

 さえた脳は、さえないオレの気持ちを無視し、オレ自身の最優先事項を吐き出していく。
 イライラした。こんなにも自分が嫌な人間だと感じたことはなかった。


 「うるせーっ!」
 
 だからオレは、自らにそう叫ぶ。
 そしてそのまま、酷薄で自己欺瞞な考えを打ち消してやろうと、捨てずに持っていた二つのミサンガを結び直してやった。


 それでも、鉄錆のような嫌なイライラ感は止まらない。
 そんな衝動のままに、じっとしてられなくて、物見やぐらから降り始めた。


 暗闇で見ずらかったが、それでも何とかもとの場所、惨劇のあった広場へと降り立つ。
 暗がりなので、はっきりと断言はできなかったが、そこには血の痕も何もなく、まるで何も無かったかのように、噴水の水だけが飛沫を上げていた。

 それは、今まであったことは忘れろって言われてるみたいで。


 じいちゃんとも誓いも。
 まどかちゃんとの約束も。
 快君や中司さんとの関係も。
 何一つ守れなかったんだって逆に実感させられて……。


「そんなの、忘れられるわけねーだろっ!」

 オレは、再び自分に言い聞かせるべく叫ぶ。
 何一つ守れなかったって諦めるのは、早過ぎると思った。

 何より、諦めるのなんてイヤだった。
 嫌な自分もままでいるのが、これ以上我慢ならなかったんだ……。


 ―――『星になるまで、上を向いていこう』。

 輪永拳の心得第二十曲目。
 どんなにサイアクでも、うつむいてばかりじゃ何も始まらないってこと。


 それを実行しようと見上げた空には、物見やぐらがあった。
 ここに来たときはなかったはずのもの。

 そこまで考え、オレは気付く。
 物見やぐらが、あのタイミングで出てきたのは、オレを助けるためだったんじゃないのかって。

 もしそうだとすれば、オレを助けた理由は、何だろう?
 何か、分からない誰かが、オレを生かそうとする意志が、そこには感じられた。


 「まだ最悪じゃない……よな」

 だってオレは、ここにこうして生きているんだから。

 オレは歩き出した。
 当てはないが、そうする理由がある。
 そして目的も。

 ならば進むしかないだろうと、自分に言い聞かせて。


                  
           ※     ※     ※



 何時間経ったのかは分からない。
 闇は変わらず、闇のままだった。

 時折見つかる白い壁に立てられたカンテラの光だけを頼りに、歩を進める。


 夜は不気味なくらい静かだった。
 陽のある時分でも、人の気配はほとんど感じられなかったが、夜は否応なく独りを意識させる。

 が、それでもオレは歩みをを止めなかった。
 ありのままの自分の本音とぶつかりあって、発破をかけられた状態が続いていたのもある。

 こうなることが、オレにとって最善であると見越していたのだとしたら。
 オレ自身の脳も捨てたもんじゃないな、なんて思ったりもした。



 そして。
 持ってきていた、水やお菓子などが尽きかけた頃に、オレはある場所に到達した。

 その場所は、一見ただの袋小路のようだったが、その行き止まりの所に、前に見たような木箱があった。

 オレは、それに近付くと、ゆっくりと開けて中身を見てみる。

 中には、地図らしき紙の束が入っていた。
 広げてみると、それは最初にまどかちゃんに案内されて見つけたものと同じ地図のようだった。

 とりあえず持っておこうと、きびすを返した所で、オレは立ち止まってしまう。
 見ると、反対側の行き止まりにも、木箱があったのだ。

 駆け寄って開けると、それにも地図が入っていて……。


 「どういうこと……だ?」

 オレは、戸惑いを覚えつつも、二つの地図を広げて見てみる。
 そして、すぐに気が付いた。


 「違う。この地図、似てるようだけど、違うじゃないか」

 これで少なくとも、地図が三つあったことになる。
 それの意味するところは何だろう?
 
 オレは他にもあるんじゃないかと思い立ち、あたりを駆けずり回った。


 ……結果。
 新たに五枚の地図を見つけることができた。

 オレは、計七枚の地図を広げて互いに見比べてみる。
 やはり一枚一枚が違うもののようだ。

 そして、そこにカギがあるのだろう。
 
 ここは、勝手に変化する迷路なのだ。
 地図を作るなら、入り口にあった大きな地図のように地図も変えないといけない。

 すると、この地図たちは変化する前の地図……過去の迷路を記録したものということになる。
 ひょっとしたら地形が変わるたびに新しい地図がどこかで生まれているのかもしれない。

 それは突拍子もない考えだったけど、入り口の地図が様変わりしていったことを思い出せば納得できる。


 そんな感じでしばらく地図と格闘していると、オレはあることに気が付いた。


 「この✖印の部分だけ、どの地図も場所が変わってない?」

 オレが覚えている一番新しい記憶の✖印の場所には、黒陽石があると中司さんが言っていた広場があった。
 
 これらの地図を見てみると、そのうちの一つには『プリヴェーニア』がある。
 また、その他の大半はその✖印が何もない道端にあるのが分かった。