「夕美」 第一話
兄弟がバラバラになる前夜長女の夕美はみんなを集めて言い聞かせた。
「俊一(長男)、浩二(二男)、真実(二女)、しばらく辛い別れになるけど、お姉ちゃんはあなたたちと一緒に暮らすことを絶対に叶えるから、どんな時もそう信じて
我慢するのよ。解った?」
「お姉ちゃん・・・いやだよう・・・離れて暮らすなんて・・・」
そう泣き出した二男の浩二の言葉にみんながつられて泣き出した。
「浩二!男の子でしょ!・・・俊一だって、真実だって我慢しているのに。お姉ちゃんが時々会いに行くから・・・頑張るのよ。叔父さんや伯母さんの言うこと聞いて
嫌われないように・・・学校は真面目に行きなさいよ。いじめられても・・・我慢するの。いい?お姉ちゃんがついているから・・・働いてみんなを迎えに行くから
信じて頑張るのよ、解った?」
泣きながら三人は首を縦に振った。辛い別れの朝が来て、玄関先から姿が見えなくなるまで夕美は手を振って別れを惜しんでいた。
「夕美、覚えておいて頂戴ね。あなたはここの家の子供じゃないから遠慮するのよ。解ったわね?」
「おばさま・・・住まわせてもらえるだけで幸せです」
「うん、そう思っているのならいいわ。家の事は学校から帰ってきたら必ずするのよ。晴樹の世話だって任せるからね」
「解っています。今まででもそうしてきましたから」
「口答えはしない!はい、でいいの」
「はい」
雅子の怖い表情は夕美を寡黙にさせた。
末子の晴樹は小さいながらも顔色を窺うようになっていた。雅子の事は決して母親だと思わなかったのだ。