小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
石原 未都子
石原 未都子
novelistID. 54893
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

あなたはこんな私、知らなくていいの

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
「あの!坂城先輩!星野先輩と付き合ってるって本当ですか⁉︎」
とても可愛いらしい多分一つ年下であろう女の子が祈るように手を組みながら私に聞いてきた。
こんな年下の可愛い子にまでこんな思い詰めたような行動させるなんて恒ったら罪なやつ。
困惑したような顔を彼女の前で作る私と馬鹿にしたかのように恒を笑う私がいた。
それにしてもこれはいったい何回目の出来事だろう。
一回とか二回とかそんな回数ではないことは確かだ。
顔のいい男は辛いね。なんて。
なんで聞いてくる人たちは聞いたらありのままの真実を人に伝えないのだろう。
不思議に思った。
この歳で伝言ゲームも碌に出来ないのか。
変な噂は他にやる事はないのかというくらい早く回るのに真実はなかなか浸透しない。
その割にはいつの間にやら気がつけばみんなそんな事もあったような。みたいになる。
まさに悪事千里を走る、人の噂も75日。
これは最悪な事にいつの時代でも変わることのない世の常だ。
あーあ。
ほんと、やんなっちゃう。
(なんて目の前のこの子が言ったら可愛いんだろうけど、私は違うな。)
「で?なんて答えたの?」
由香里は色素の薄い綺麗なブラウンの目で私を見ながら言った。
「なんてって。別に普通に。」
至って普通に私は答える。
「普通って、なに。」
一見、難題に思えるその問いかけ。
でも私の中での答えはシンプルだ。
考え方なんて人それぞれ。
統一しようなんて思う方がおかしい。
大体、マイノリティーがあるから物事は面白い。
普通とは連れたってトイレに行く女の子の行動のよう。
誰かと同じことを共有して自分は閾値からはみ出てないことを確認して安心するそれだけのためにあること。
つまらない定義、基準だ。
でも由香里が聞いてるのはそんなことではないんだろうなぁと目線を少しずらす。
机を跨いで話しているのにずずいと乗り出して問いただすものだから由香里の見目麗しいお顔が近い。
「由香里、近いよ。相変わらず綺麗だね。あなたの彼が僕の彼女が綺麗過ぎてため息が出てくるけどそれは幸せを逃しているのではなくて周りに幸せをおすそ分けしているんだって言ってたよ。ごちそうさま。」
「はぐらかさないで!だから、なんて答えたの!」
「だからそんな心配しなくてもあなたの恒とは付き合ってないわよって。ほら、普通。」
ね!と笑ってもそれは悲しいかな私がやると胡散臭いだけで。
「また、真梨、あなたは!」
由香里は思い切り拳を机に叩きつけた。
不意にふわりとシトラスのような香りが鼻先を擽る。
最近、これと同じ匂いが由香里の彼からもする。
私はこの匂いがあまり好きではない。
そう思ったけど口には出さなかった。
そんな事してもまたあなたは話を逸らす!と怒られるに決まってるし。
「なんなの?"大丈夫。あなたはとても可愛いから恒だってきっと振り向くわ。私も協力するし。ね?"ってちゃんとフォローしておいたわよ。我ながらすごいだめ押し。凄くない?」
そんな心ない私の言葉にあの子は嬉しそうにしていた。
私の言うことなんかをすぐ信じちゃうなんて本当に可愛い子。
いじらしい。
恋する乙女は得てしていじらしいものだと勝手に私は思っている。
対義語はきっといやらしいだ。
そして、例えには坂城真梨をみよ。と載っているのだろう。
笑える。
でもまぁ思うのだがそれで私もあの子も恒もみんな幸せならそれで良くないかしら?
嘘も方便っていうし。
「違うわよ!そういうことではなくて!」
「ではなくて?」
私は聞き返した。
「だから!なんで!そういう子たちを!牽制して!おかないのよ‼︎」
たくさんの!をありがとう。
でもそんなこと言われても、ねぇ?
「牽制って別に私、恒とは付き合ってないし。」
問題はそこだ。
いくら自称いやらしい奴でもそんな嘘はつかないつけないつまらなすぎて。
「また、それ?」
由香里はうんざりよと言わんばかりに頭を抱えた。
私は胸を張っていう。
「大事な事は繰り返すものよ。よく本にも書いてある。」
「なにが大事な事よ。どこまでも意地を張るんだから!」
「意地じゃないわよ。真実。」
「あなたたちとても親密じゃない。付き合いなさいよ。」
「由香里だって仲のいい友達も幼馴染みもいるじゃない。」
それはもう彼が嫉妬するくらいに。
でも付き合ってない。
それとなんの差が?
「それとこれは違うわ。」
「そうなの?」
よそはよそ。うちはうち。ですか。
由香里はいいお母さんになりそう。
優しくてでも厳しくて綺麗で。
私なんて母親になれたとしてもきっと反面教師のどうしようもない母親になるのだろう。
思わず遠い目をしてしまった。
「そうなの。あなたたち側からみれば付き合っているようにしか見えないもの。」
「そうかねぇ。」
ふーん。
そんな風に見えるのか。
私と恒は。
だとしたら考えものだ。
あの可愛らしい子にもそう見えていたのだとしたらとても可哀想。
否定はしたけれども。
だって現実、私と恒は付き合っていない。
あの子は夢幻に胸を苦しめていたのだ。
夢幻は嘘よりたちが悪い。
「だっていつも一緒にいるし恒なんてあなたにべったりじゃない。」
ああ。あれのことか。
あの挨拶と同時にくる体当たりか。
「あれは習性よ。ほら、犬と同じ。」
「犬も友達もあんな抱きついたり肩組んだりはしないわ。」
「えー。」
「まぁ百歩譲って友達も挨拶代わりに抱きついたりするとしましょ。」
でもね。と由香里の目が怪しく光る。
「友達同士でキスなんてしないんだからね!絶対に!」
腕を組んで石になってしまいそうなくらいに睨まれる。
まるでメデューサ。
おお。怖い。
(なんて言ったら絶交されること間違えなしなので言わないでおく。)
「あちゃー。」
あちゃーじゃないでしょう!棒読!
と由香里は目久尻たてる。
なにが悪いって間が悪い。
空き教室でうっかりなんとなくなり行きで流されて恒とキスしようとしてたのをうっかり由香里に見つかってしまったのだ。
本当に、うっかり。
悪いことだなんて思っていなかった。
うっすら開けていた目から恒の綺麗な伏せたまつ毛が見えて得かなとしか思っていなかった。
私はバランスの取れた綺麗な恒の顔が好きだ。
唇が触れるかなんてどうでもいい。
普段見れないような静かな恒の顔がゆっくりと近づいてくる過程の方がよっぽど価値のあるものだと思った。
しかしそう思っていたところに由香里がうっかり入って来て私と恒を見るなりごめんなさい!と大声を張り上げて逃げて行ったのだ。
本当に、間が悪い。
「いや、未遂だから。してない。」
それでまた由香里はなにを勘違いしたのか私と恒が逢引していたのだと思い込んで違うと言っても好き合っているに違いないとかなんとか私たちをひっ付けようとしてやめないのだ。
私は由香里も恒も好きだから別に悪い気はしないのだけどそれこそよそはよそ。うちはうち。ではないの?
「ねぇ知ってる?恒はなにをしていてもあなたばかりを見ているのよ。」
それは知ってる。
時折鋭利な視線を感じるしその先を辿ればいるのはいつも恒だ。
でもだからってどうにかしようとは思わない。
だってねぇそんなのいったい私にどうしろと?
「そうねぇ。」
「素直になればいいのに。」