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農家の子ミシュレ

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農家の子ミシュレ

10歳になる男の子ミシュレはフランスのノルマンディ地方の田舎に住んでいる
農家の生まれだ
明日は母が飼っている鶏の中の一羽の首を切り落とす日
今日はその前日で、朝、山羊のミルクとひとかけらのパンを食べてからミシュレはずっと小麦を積む仕事を手伝った
夜になりミシュレはリビングの片隅で絵を描いている
この絵が売れたら、お金になったら、学校に行ける
学校に行きたい、ミシュレの幼少の記憶が確立していった辺りからの切なる願い、
ミシュレの血が、体のすべてが切望する願い
物乞いより貪欲で、司祭者より純白な、命からくる願い
―――外国語、科学、歴史、数学、音楽、美術、その言葉の響きに、ミシュレは禁断の果実にも似た尊く優しい夢を見た
ミシュレは火のついた暖炉の左上の大きな壁に
聖母マリアが飾られていると思う
何もない無地の白い壁に対してそう思うのだ
母と一度大きな街リールに行った時、美術館の広告がミシュレの目に入った
そこに版画で描かれていた聖母マリア像がミシュレを完全に虜にした
その広告が剥がれそうになった時、ミシュレは母の目を盗んで
また街の人の目を盗んで、その一枚の紙を手に入れ持ち帰った
その版画で描かれた聖母マリアの紙をミシュレは大事に馬鈴薯の入った木箱の下に隠している
それからというもののミシュレは暖炉の壁横の大きな無地に聖母マリアが飾られているとしか思えなかった
記憶の交錯、現実とは異なる認識
だがミシュレにとって絶対誰にも触れてほしくない確かな真実
今日も夕飯に蒸かした馬鈴薯を食べそのあと母が
「シャルル5世の治世下に作られたバスティーユ牢獄の襲撃に始まり、ブリュメールのクーデターで革命は終わっても、私達の生活には何も変わりはないのよ」
そう毎日何度も同じ話をする
母はミシュレの目を見つめミシュレの瞳の奥に深い深淵を見出す
またミシュレも母を見つめ母の瞳の奥に深い深淵を見出す
明日母が鶏の首を切る
刃物が目の前の身近な道具でもあり
革命を終わらせる平和と希望の道具にもなる
また、それは、マリーアントワネットの首を切る道具にもなり得るという事実は
子供のミシュレの中に潜む悪魔と聖母マリアの複雑な入り乱れ、想像と酩酊の美しい耽美な刺繍を編んでいる様でもあった
ミシュレの中の聖なる賛美をおもわせる光と影
イエス様、どうかフランス全土の光になりたいです
                                  (完)
作品名:農家の子ミシュレ 作家名:松橋健一