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靴ベラジカ
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Wie geht's ―はじめまして

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無骨な木の柵に囲まれた街道をよそに、
腹の虫が鳴き、男はようやく水浴びをやめて身体を拭い始める。
気付けば、泉に20分は入っていただろうか。
身体を拭った布を首に、新しい下着を身につけると
そのまま本日のランチメニューの用意を始める。
彼は物ぐさであった。

セラグレンやや北東、ツヴィーベル街道。
ここをさらに進んだ農村、アベントロートとセラグレンを結ぶ唯一の道だ。
タマネギなどと気の抜ける名も、アベントロートの農作物…
特にタマネギが、作物が育ちにくいセラグレンの食卓を支えている事から来ている。

この男、イェレミアス・シンジェロルツの歳は20に届かないように見えた。
道中背負っていたケースの扉を開けると、冷たい空気が疲れた体に染みる。
 「腐ってない」
紙の塊を丁寧にはがすと、大きなサンドイッチが入っていた。
不思議なことに、挟まれたレタスやトマトは作りたてのように新鮮だ。
イェレミアスは当然といった表情で、適当な岩に腰かける。

柔らかいそよ風が吹く崖からの風景は中々に悪くないのだが、お構いなしに
彼は無感情にサンドイッチを口に運びつつ、
おもむろにスラックスと上着を着直す。
近くに村が見える。 アベントロートまでもう一足のようだ。

 「ひゃあーっ!」
悲鳴。 女だ。 しかも遠くはない。
イェレミアスは乱雑に荷物の内から妙な… 何とも言えない、
束ねられた筒のような何かから崖下を覗き、見下ろした。

 「熊?」
表情が強張る。 
人間二人どころでは済まない巨大な熊が、悲鳴の主を今まさに喰らおうとしているのだ!
何ということか! ナンターレでは街道、集落、その他人間が
集まる土地周辺の猛獣は、発情期の前に狩り尽くす、そういう決まりがある。
お陰で、ナンターレでは今は子供達が安堵して森で遊び、
子を持つ親たちが家族で遠出が出来る唯一の季節なのだ。

狩人達は何をしていた? 今まさに、彼が見ている
「惨いこと」が起きないようにこの決まりが作られたというのに!
 「う、あああぁああああっ!!…」
少女は必死で抵抗するが、その怪力には叶うはずもない!

一体何が起こっている!? 彼は小袋を懐から取り出し、中の試験管を握り締め、
混乱する回路から、ここを如何すべきか超高速で思索を巡らせていたのだ。

使うか? でも、これは大事な、たった一つの。
使えばもう作れない。 本当に「カンバン」だ。
死体を見る事は慣れてる。 筋の通らない面倒事で、
町を追われるのももう散々。 顔も知らない奴まで助ける義理もない。

だけど。 だけどこいつは。
確かに顔も知らない。 でも、ここで死ぬ謂れがある奴なのか、
そんなに酷い奴かも知らない。 それに、―――は、―――なら…

彼は、自分の宝と命を天秤にかけられる程、冷酷でも、理知的でもなかった。

目撃から一秒、イェレミアスは試験管を専用マガジンに叩き込み、
トリガーを、引いた。