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わたなべめぐみ
わたなべめぐみ
novelistID. 54639
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ファースト・ノート 6

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 晃太郎の音が大音量で迫る。「ピアノラインは誰が作ったのか」と聞かれたので素直に初音だと答えると、譜面のコピーを見ながらしかめっ面をした。リズムパートが専門とはいえ、コードが変更されていることにも気づいているだろう。

 こっそりのぞきこむと、譜面には鉛筆で複雑なリズムが書きこまれていた。
 晃太郎はジロリと要を睨んで言った。

「あいつが編曲したのか」
「そうだけど」

 素知らぬふりをしていったが、心臓は足早に血液を送り始めていた。

「次は絶対ここに連れてこい」

 スティックを握って口の端を上げ、「もう一度イントロから頼む」と言ってカウントを取り始めた。要と修介は目をあわせて笑った。

 晃太郎がバンドに入ってきた頃、その圧倒的な音色と精巧なリズムに戸惑っていた修介も、ずいぶんと波長が合うようになってきた。

 ほどよくリラックスした指からのびやかなベースラインが紡がれる。ハイハットとバスドラムが織りなす複雑なリズムに乗って、軽快にスラッピングをする。人差し指や中指でベースの弦を引っぱって指板に打ち付ける動作を繰り返し、視線で要に合図を送ってくる。

 重なり合うようにソロを受け継いでギターに指を這わせる。
 修介は元のベースラインに戻る。 

 デビューしてからの三年間を陰で支えてくれた修介の力強い音色だった。

                ***

 翌日の朝九時ごろ、携帯電話が鳴った。明け方まで曲を作っていたせいか、目を開けられないまま電話に出た。かけてきたのは芽衣菜だった。鼻水をすすりあげる音が聞こえる。

 どうしたんだと聞いたら、修が死んだ、と言った。

 返答できずにいると、嗚咽をあげながら「昨日の深夜に、高速道路の玉突き事故に巻きこまれて即死だったみたい」と言った。今どこにいるのかと聞いたら病院だと言った。俺もすぐに行くよとこたえて通話を切った。

 すばやく服を着替え、湊人の腕を引っつかんで車に乗りこんだ。

 事態が飲みこめないまま助手席に座った湊人に携帯電話を渡す。初音にかけてくれと頼んだ。手のひらの震えを体の中におさえながら、修が事故で死んだ、と言った。